研究課題/領域番号 |
17K03114
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
志村 洋 関西学院大学, 文学部, 教授 (90272434)
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研究分担者 |
野尻 泰弘 明治大学, 文学部, 専任准教授 (70439066)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大庄屋 / 城下町周縁 / 町場化 |
研究実績の概要 |
2020年度はコロナ禍で個人蔵文書の新規調査が不可能となったため、計画を変更して、既に撮影した史料をもとに、松本藩庄内組大庄屋A家文書(約1,200点)と同組庄屋B家文書(約6,700点)を再調査し、あわせて、A家・B家の同族家で、19世紀には上地掛を担当したC家に伝来した史料群の目録作成を行った。その結果、大庄屋A家文書については、①1,000点を超える近世文書を新たに発見し、その過半は近世にA家と親戚関係にあった松本町大名主のK家に残された文書群であったこと、②戦国大名小笠原氏の旧臣であったK家は、近世中後期に、近世以前の家譜調査を行う一方、小笠原氏や水野氏といった旧松本藩主家や同家家臣との間で身分を超えた親交を深めていったこと、③A家文書の中核をなす元禄期以降の大庄屋日記約100冊は、主に組支配に関する公式の通達類や願書類を記録しており、郡方役人との内々の交渉過程や情報交換等はさほど記録していないことも明らかとなった。庄屋B家文書については、木箱15箱分、史料数約6,700点分の目録取りを行うことができた。調査の結果、①城下町周縁に位置するD村の大地主であったB家は、近隣地域に対して未進年貢の立替や米融通などを度々行い、広範な地域に政治的影響力を行使していたこと、②家経営としては、城下町で商売や貸家経営を行うなど、城下有力商人に比肩する経済活動を展開していたことなどが明らかになった。③またD村はその場所柄、元禄期頃までには小商人や日用などの借家層が多数村内に居住し、18世紀半ばには一大水車業地域に成長していたことなどが判明した。上地掛を勤めたC家文書からは、上地掛が管理する土地には一般の百姓高請地のほかに、城下町人が所有する田畑や松本藩家中の名請地や無役地などが含まれており、多様な身分の者が田畑を所有するという城下町周縁村落の特徴が現れていること等が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍のために、個人蔵文書の新規調査・撮影が全くできず、学生アルバイトの雇用などにも大きな制約を受けた。2020年度は前年度までの撮影ずみ史料をもとに、目録の見直し・修正作業を行い、史料分析を行った。 また、松本藩大庄屋日記の内容的検討から、大庄屋-郡方役人間の内々の交渉過程や情報交換等が深く追究できない可能性が高まってきた。そのため、本研究課題の一つの柱であった政治情報の独占という問題群は松本藩の場合は正面から扱うことが困難になってきており、全体的に遅れが出ている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度もコロナ禍状況が劇的に改善するとは考えられないため、現在手元にある撮影ずみ史料を分析材料にして、分析の精度を高め、見逃していた論点の発見等に努めるつもりである。2020年度と同様に、コロナウイルス感染防止対策上、学内における学生アルバイトの雇用は最小限(最大で2名)にしなければならない。可能なものについては学内作業から在宅作業へシフトするなど、アルバイト雇用の全体的枠組みを組み直して、効果的に研究を推進する。 松本藩に関しては、城下町周縁地域という特性に十分に配慮しつつ、当該地域の土地利用や荒廃地復興、城下町商工業と村の生業との関連等といった、社会的・経済的な問題群を意識的に分析していく。 林田藩については、大庄屋日記の分析がいまだ不十分のため、日記の分析を鋭意進める。それとともに、代官沢野家文書や北横内村田渕家文書などといった、大庄屋以外の史料群の分析を進めることで、大庄屋文書の欠を補う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために、個人蔵文書の現地調査(史料採訪)が全く行えなかった。既に所蔵者からへ借用し研究室で保管していた古文書についても、キャンパスの立入制限のために長期間アルバイト雇用ができず、まとまった額の次年度使用額が残った。 2020年度の研究で撮影ずみ文書の史料目録がおおかた形をなしてきたため、2021年度は在宅アルバイトでできる作業を洗い出し、重要な史料の筆耕などを行っていきたい。あわせて、借用中の史料のうち、未撮影分については引き続き撮影を行い、目録作成に繋げていきたい。
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