研究実績の概要 |
2021年度もコロナ禍のために個人蔵文書の採訪調査が大きく制約された。そのため、松本藩に関しては、庄内組大庄屋A家文書と同組庄屋B家文書の写真撮影および目録作成に注力することとした。A家文書については過年度調査分と合わせて史料計約1,600点の目録を取ることができ、B家文書については同家所蔵文書の全てについて目録を取ることができた(過年度分と合わせて、計9,000点)。両文書群の詳細は2022年度中に目録集出版の形で公表する予定である。また、城廻り地区特有の家中名請地に付いて分析を深めた。その結果、松本城近郊村々では幕末まで多くの家中名請地が上り地の形で残存していたこと、上地掛の管理の下に百姓や下級藩士による請作が行われていたこと、土地利用形態としては屋敷地としての利用はわずかであり大半は畑としての利用であったこと、などが明らかになった。また、かかる家中名請地の事例は、林田藩などの他藩でも共通して見られる事態であったと考えられる。 林田藩大庄屋については、①文化2(1805)年から嘉永6(1853)年までの31年分の役用留記繰出を筆耕し、林田組大庄屋三木氏の職掌について検討を加えた。本格的分析は今後の課題だが、寄普請などの大規模普請記事がなく、反対に個別村レベルの記事が多いなど、小藩大庄屋特有の特徴が見られた。②また、同藩の大庄屋・大年寄・村役人の序列や諸特権についても明らかにした。その序列は家柄・職務経験年数・年齢によって構成され、役職就任に際して藩のどの階層の役人が関与するかも明確に分かれるなど、複雑な序列や特権の体系が存在し、機能していたことが分かった。林田藩では小藩ゆえに藩役人と村役人の人間関係上の距離が近く、村役人同士の面識も濃密であったと考えられる。
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