研究課題/領域番号 |
17K03120
|
研究機関 | 飯田市歴史研究所 |
研究代表者 |
羽田 真也 飯田市歴史研究所, 研究部, 研究員 (40757837)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 村社会 / 地域社会 / 社会構造 / 信濃国(信州) / 伊那地域 |
研究実績の概要 |
【史料調査】本研究の対象地である信濃国伊那郡座光寺村(現・飯田市座光寺)において、今牧新治家文書(並木今牧家文書)と古瀬今村家文書の史料調査を実施した。前者については、現状記録調査を完了させ(約250点)、調査報告と目録を『飯田市歴史研究所年報』15号にて公表した。後者については、現状記録調査に着手し、約1,800点の目録を作成した(継続中)。同時に、主要な文書の写真撮影も行った。また、座光寺支所文書の整理作業を、地元有志(座光寺「歴史に学び地域をたずねる会」)とともに行った。そのほか、座光寺周辺の旧大島村役場文書や上新井村古文書(いずれも下伊那郡松川町)の調査も実施し、山の用益や山論に関する文書の写真撮影を行った。これらを通して、本研究の基盤を整えることができた。 【研究】上記の史料調査の成果を踏まえ、文化期の村方騒動を取り上げ、19世紀初頭の座光寺村の村運営をめぐる社会秩序について分析した。具体的には、(ⅰ)特定の家が務める長百姓の集団(長百姓仲間)が一体的に村運営を担う体制であったこと、(ⅱ)一方で、村内の基礎的な生活共同体である組の利害を吸収する装置が存在したこと、などを明らかにした。また、山の用益や木材利用の観点から、郷蔵普請のありようについても検討した。これらの成果により、座光寺村における村社会の全体構造把握に向けて、どのような要素・問題が今後の検討課題になるのかを把握することができた。 【研究成果の公表】関西学院大学近世史研究会、飯田市歴史研究所定例研究会、飯田市歴史研究所ワークショップなどで、上記の研究成果を発表した。また、座光寺「歴史に学び地域をたずねる会」でも2回、報告会を開催し、地域住民へ研究成果を還元した。これは、歴史文化を基盤とした地域再生に寄与するという、本研究の課題のひとつを具体化させたものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
史料調査については、今牧新治家文書(並木今牧家文書)の現状記録調査を完了させ、『飯田市歴史研究所年報』にて目録を公表することができた。また、古瀬今村家文書に関しても、定期的に所蔵者宅へ通い(月2~3回程度)、現状記録調査や写真撮影を進められた。さらに、周辺地域の旧大島村役場文書や上新井村古文書の調査にも取り組めた。このように、史料調査は、おおむね当初の計画どおりに進めることができた。 また、本研究では、地域住民と協働し、歴史文化を基盤とした地域再生に寄与することを、課題のひとつに掲げているが、それに関しても、座光寺支所文書の整理作業を地元・座光寺の「歴史に学び地域をたずねる会」と共に行うことができた。また、この会において2回、報告会を開催し、研究成果を地域へ還元することもでき、おおむね計画どおり進められた。 さらに、研究については、(ⅰ)19世紀初頭における座光寺村の村運営秩序の解明、(ⅱ)郷蔵普請からみた山の用益や木材利用の特徴の把握、この2つの課題に取り組み、その成果を研究会などで報告し、今後の研究の指針を得ることができた。 しかしながら、座光寺村の分析を主目的とした論文の執筆には至らなかった。その理由としては、内的には、本研究の主軸となる古瀬今村家文書が当初の想定以上に膨大であり、かつ難解な重要文書(日記など)が多かったこと、外的には、所属する飯田市歴史研究所の移転があり、それにかかわる業務に、当初の想定を超えて、かなりの時間を割かざるを得なかったことがある。
|
今後の研究の推進方策 |
史料調査に関しては、平成30年度は主として、古瀬今村家文書の現状記録に取り組む。主要な文書の写真撮影も行う。古瀬今村家文書は、想定以上に膨大であったため、当初の計画どおり平成30年度に調査を終えられる可能性は低い。調査が完了しなかった場合は、平成31年度にも継続する。調査が完了し、所蔵者の了解を得られれば、調査報告と目録を『飯田市歴史研究所年報』などで公表することを目指す。なお、当初の計画では、古瀬今村家文書の調査を座光寺「歴史に学び地域をたずねる会」と協働して実施することを検討していたが、諸事情により困難になったので、中間報告を行うことで代替する。 また、整理作業がほぼ完了した座光寺支所文書についても、平成30年度に主要な文書の写真撮影を行う。現在の座光寺支所文書の目録には不備があるので、可能であれば再確認作業も実施する。そのほか、上記以外の座光寺に残る史料群や、周辺地域の史料群についても、必要に応じて、現状記録調査や写真撮影を進める。 研究に関しては、平成29年度の成果を踏まえ、(ⅰ)座光寺村に生きた人びとの基礎的な生活共同体として存在した組、(ⅱ)山や川(河原)をめぐる秩序、この2点を切り口として、座光寺村の全体構造の解明を目指す。そのうえで、同じ伊那地域の山里社会や、存立条件の大きく異なる他地域の村社会(播州加古郡新野辺村など)との比較検討を行い、座光村の固有性と伊那地域の村社会の特性を把握する。 研究成果の公表に関しては、平成30年度は、前年度と同じく、座光寺にて報告会を2回開催する。平成31年度にも報告会を企画する。また、平成30年度と31年度、それぞれに論文を執筆し、『飯田市歴史研究所年報』などで公表する。最終年度の平成31年度には、飯田市歴史研究所や座光寺にて、研究成果を総括するワークショップの開催を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の研究課題・計画を有効かつ効率的に遂行するうえで、真に必要な額のみを使用したところ、3万円余の未使用額が生じることになった。 平成30年度も、さらに史料調査や研究が本格化する中で、物品費(書籍、史料保存用中性紙封筒、史料保存用中性紙箱など)、旅費(学会・研究会への参加)、人件費(写真撮影補助など)などに相当な費用を要する予定である。平成29年度未使用額は、この補充に使用する計画である。
|
備考 |
【調査成果報告】羽田真也「今村(善興)家文書(古瀬今村家文書)調査中間報告」座光寺・歴史に学び地域をたずねる会、2017年 【調査成果報告】羽田真也「江戸時代の郷蔵普請について―古瀬今村家文書の紹介①―」座光寺・歴史に学び地域をたずねる会、2018年
|