研究課題/領域番号 |
17K03125
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松尾 有里子 東京大学, 東洋文化研究所, 特任研究員 (50598589)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 東洋史 / イスラーム / 女性 / ウラマー / 帝国 / 名家 |
研究実績の概要 |
平成29年度の前半は、本研究で扱うウラマー(イスラーム知識人)の名家であるエブッスード家の近世から近代にかけての活動について、主にオスマントルコ語で記されたウラマーの伝記集成と人名録を使って、同家に帰属したウラマーたちのプロソポグラフィーを作成した。そのデータに基づいて、血縁・姻戚関係を可視化できるように家系図を完成させた。また、その作業と平行して、同家の発展の礎を築いた16世紀後半のシェイヒュルイスラーム(イスラームの長老)職にあったエブッスード・エフェンディと当時のオスマン政府との関わりを、当時政権内で発言力の強まっていた後宮の女性たちとのエピソードも交えて「壮麗王スレイマンと女人の統治」に発表した。これは一般の人々にもオスマン帝国の歴史が理解できるように、まとめたものである。夏期に10日間トルコ共和国で史料調査を行い、イスタンブルの首相府文書館にてエブッスード家のウラマーに関係する任免状、宗教寄進(ワクフ)地の文書、財政文書を調査した。年度後半では、10月に早稲田大学で開催された国際シンポジウム「近代オスマン帝国の軍事・教育」にて夏期の調査の一端を英語で発表した。年度後半はそのほとんどを夏期の調査で収集した史料の分析を中心にあてた。そして平成30年3月に同家の近代の女性たちとオスマン近代教育について、「砂漠の探求者」を探して研究会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度である本年度は、秋に国際シンポジウムでの発表題目がすでに決まっていたこともあり、その内容の趣旨に適うべく、夏期のトルコ現地調査での史料収集、閲読を計画的に進めることができた。当初調査が難しいとされた史料を閲読できたこともあり、文書館での研究にその多くを費やし、その結果、第一年度に予定していたエブッスード家発祥の地である中央アナトリアのチョルムへの調査をとりやめ、次年度以降に延期することとになった。この夏期調査の成果の一部は、10月1日の国際シンポジウムで発表したが、その際、同じく登壇した研究者の助言を受け、主に当家がイスタンブルに所有していた宗教寄進地の社会的役割をより細密に調べていく必要性が生じた。そのため、平成30年3月に再び、イスタンブルの首相府文書館を訪れ、宗教寄進地関係の文書の閲読と収集に時間をかけた。またこれらの研究の成果を一般の歴史雑誌に寄稿し、社会還元を目指した。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度の目標は、第一年度の現地による史料調査の分析とその成果の一部をオスマン帝国史関連の研究会、国際学会で発表し、冬期に第一年度に実現できなかった中央アナトリアのチョルムへの調査を行う予定である。 この目的を達成するため、前半期は第一年度に収集した史料の解読、分析を引き続き行うとともに、そこに現れた同家と関係をもつ人びと、すなわち、血縁・姻戚関係から師弟、同窓関係、パトロン・クライアント関係等に至るまでの情報のデータベースを作成し、家門の形成、発展要因を探る。ここでは、イルミエ(ウラマーのヒエラルヒー)を中心としたオスマン政権内部におけるウラマー間の師弟関係、姻戚関係とイスタンブル、チョルム地域社会での官職の授受をめぐる人的ネットワークがどのように構築されていくのかが検討される。後半期には、まず、18世紀のエブッスード一族の家門形成に関するこれまでの研究の成果を10月に早稲田大学で開催予定の国際シンポジウムで発表する予定である。後半期に検討する課題は、同家が近代に入って維持してきた人的・社会的資本を分析することであり、そのため、冬期に再度イスタンブルでの文書史料調査を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一年度の研究の進捗状況を踏まえ、第二年度において国際学会での発表と現地調査を行う必要性が生じたため、旅費として次年度に使用する予定である。
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