研究課題/領域番号 |
17K03126
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
鈴木 直美 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (50643962)
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研究分担者 |
鷲尾 祐子 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (60642345)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会的流動性 / 世帯間移動 / 漢簡の実見調査 / 木質と木取り |
研究実績の概要 |
今年度は台北中央研究院歴史語言研究所蔵居延漢簡の実見調査、および岳麓秦簡や里耶秦簡を用いての中国古代における未成年の空間的・社会的移動の研究を重点的に行った。 (1)台北中央研究院所蔵居延漢簡の実見調査(平成30年3月) 調査に当たっては、事前に木簡の法量や図版を精査し、図版から読み取れる木簡の特徴と釈文を入力した調査票を作成し、実見調査の成果を最大限に出せるよう工夫した。調査の成果としては、文書や帳簿を作成する際に使用する木材の種類(木質)や木取りを、提出先や用途によって選択する傾向を見出すことができた。こうした知見が、ただちに名簿や帳簿、関連文書の集成・復元に結びつくわけではないが、文書作成の現場の明文化されていないものを含む「規範」を知ることは集成・復元の基礎として必要だと認識した。 (2)秦簡を用いての空間的・社会的移動についての研究 岳麓秦簡や里耶秦簡を用いて、秦における奉公を目的とした世帯間移動や、官署の下役としての社会的属性の移動の研究を行った。具体的には、秦において「隷」と呼ばれる人々の身分的属性を明らかにし、「隷」として生家以外の世帯に住み込む者が一定程度いることを論証した。また、「小史」と呼ばれる官職が未成年の就く官府の下役であることを確認した。こうした「隷」や「小史」となるのは、10代の少年・少女であり、秦人は人生の早い段階で空間的な移動や、社会的属性の変化を経験していることが判明した。中国古代史研究では社会的流動性の研究蓄積が多くはないため、このような個別研究を積み重ねたうえで、当該社会のより広範囲で長期的な流動性を考える必要性を感じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実見調査参加者の予定の調整がつかなかったため、居延漢簡の実見調査を平成29年8月から30年3月に延期した。その分、事前に行う調査予定簡の選定と、漢簡のデータを書き込んでおく調査票の準備を丁寧に行うことができ、調査自体はスムースに運び、調査結果の整理もしやすくなった。 居延漢簡調査にかわり、秦簡を用いての空間的・社会的移動の研究を先行したため、次年度に予定していた成果の公表が前倒しとなった。こうした予定変更がうまくできたため、おおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)居延漢簡・肩水金関漢簡による旅行者のプロフィール研究 居延漢簡・肩水金関漢簡に残る通行証や移動者名簿を利用して、旅行者の構成員の年齢・爵位などをデータ化する。ここでいう旅行者とは主に商用旅行者や官吏などと、旅行者のグループに奉公人として従う者を指す。このデータ化によって、世帯内非血縁者の多寡や性格、個人が広域の移動を経験するタイミングを理解することができる。 (2)里耶秦簡による家族・世帯間移動の研究 公表の遅れている里耶秦簡であるが、まもなく未公表簡を収録した報告が出版されるといわれる。出版され次第、家族・世帯にかかわる名簿や文書を抽出・整理し、家族・世帯間の人の移動、世帯構成員の地域を越えた移動の諸相を研究する。 (3)里耶秦簡・走馬楼漢簡の実見、および里耶秦簡出土地調査 今年8月に里耶秦簡・走馬楼漢簡の実見調査、および里耶秦簡出土地の調査を実施する。前漢中期の史料である走馬楼漢簡は、里耶秦簡や居延漢簡と文書・帳簿の書式や簡牘の使用方法に連続性が認められるため、今回合わせて調査することにした。29年度の実見調査の成果を踏まえ、里耶秦簡・走馬楼漢簡の文字内容だけでなく、木簡・竹簡の作成方法、木(竹)材の質や木取りにも着目し、データを取る予定である。こうした基礎作業を蓄積することで、名簿や文書の集成の精度が向上することを期待している。また、里耶秦簡の出土地の交通環境や自然環境を実見し、記載内容の理解を深めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に実施した台北での調査において、研究所内の宿泊施設を確保できたため予想以上に宿泊費がおさえられ、旅費が少なく済んだ。30年度の長沙での滞在期間を延長し、簡牘調査を充実させる。
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