研究課題/領域番号 |
17K03126
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
鈴木 直美 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (50643962)
|
研究分担者 |
鷲尾 祐子 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (60642345)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 里耶秦簡 / 移動 / 地名索引 / 官職索引 / 人名索引 / 女性と労役 |
研究実績の概要 |
今年度の最大の成果として『里耶秦簡(壹)索引稿』(アジア・アフリカ言語文化研究所発行、http://repository.tufs.ac.jp/handle/10108/116835)の出版があげられる。本書は本科研メンバーが編集に参加した「地名索引」「人名索引」「官職索引」のほか、他の編集者による「官署官職名総覧」「身分呼称総覧」「暦日索引」「労働編成索引」から成り立つ、里耶秦簡についての多角的な索引である。本書の出版により、本科研のテーマである「移動」を考えるうえで、秦代遷陵県を中心とした地理的な広がりが一目でわかること、遷陵県で勤務する官吏一人一人の経歴の追跡が容易になること、遷陵県に動員される人々の身分や出身が明確になることなど多くの研究メリットがあった。また、出版形態を電子書籍としたこと、書籍内に多くのリンクを張ったことで、各項目の横断的な検索が可能になっており、研究の効率化にも役立った。そして、電子書籍はアクセスしやすく、関連する研究者への案内にも努めたため、多くの反響をすでにえている。 次に秦から漢にかけての女性労役についての研究報告を行い、女性労働力への国家的需要と、労役徴発による男女の分離と女性の貞潔という相反する考え方が併存していたことを明らかにした。また、中国古代の家族をテーマにした書籍についての書評報告では、家族と家族法への意見のみならず、中国古代史研究の抱えている「共同体論」の問題に及ぶ幅広い議論が展開された。この他、里耶秦簡での公文書用語「某主」について検討した論文の中国語翻訳版が出版されたことにより、中国語圏を含む幅広い研究者との意見交換がしやすくなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この2年ほど対面での話し合いや報告が難しい状況が続いているが、オンライン会議システムを活用して密に意見を交換し、それぞれの研究に反映することができた。 何より、『里耶秦簡索引(稿)』の出版により、史料の検索が大幅に効率化し、データの収集が容易になった。また、索引原稿作成については反省点を洗い出し、改善案も出ているため第8層以降の索引出版をスムースに行うことができる。 前述の女性労役の問題については、報告会での検討結果を生かしながら原稿化が進んでおり、書評もほどなく雑誌に掲載される。さらに中国での出版を控えた(現時点で校了)原稿が2本あり、新型コロナウイルス流行などの影響を考慮しても、今年度中には出版できるはずである。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は研究の最終年度のため、これまでの研究成果をまとめ、さらなる研究への展望が開けるように以下の4点を準備している。3については今年度に報告会を実施し、広く意見交換の場を設けたい。なお、4はこれまでの簡牘の実見調査でえられた知見を史料(衣物疏)の観察に生かした研究であるためここに掲載した。 1.今回の『里耶秦簡索引(稿)』の索引原稿作成段階で生じた課題を踏まえ、第8層出土簡の索引作成を行う。 2.研究成果で触れた女性労役の問題、および中国古代の家族をテーマにした書評については報告会での議論を生かしながら文字化して公表する。 3.里耶秦簡を利用して、秦代遷陵県に集まる世帯や人々の移動範囲を整理する。これにより秦簡に名前を残す人々の経験した空間的移動と社会的役割の変化を明らかにし、統一帝国の誕生が個人の行動範囲や人生経験にどのような影響を与えたかを考える。また、遷陵県勤務の官吏の官暦をデータ化しながら、秦代下級官吏のライフヒストリーについて具体的に明らかにする。 4.衣物疏(漢簡・晋簡)の記載方法と内容を通じ、葬送儀礼を執行する家族・親族の葬送観とその心性を読み取り、漢から魏晋にかけての葬送儀礼がどのように展開したかを考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス流行により長距離移動をともなう出張や招聘ができず、交通費や宿泊費の支出がなかったからである。
|