本研究課題は当初は2020年度に終了予定であったが、新型コロナウイルス流行などの事情により研究期間を2年延長した。しかし、新型コロナウイルス流行の終息がみえず、最終年度となる今年度においても中国国内での追加調査や関係する研究者を招聘しての会議などを実施することが困難であった。そこでこれまでに収集した史料・資料を見直し、口頭での報告や論文を執筆することにした。具体的な成果は以下の通りである。 (1)これまでの簡牘実見調査の成果をまとめる意味で、秦の住民名簿である里耶秦簡K11出土簡の調査結果を報告した。報告では簡牘の計測結果や背面の様子、編綴痕の有無や罫線の間隔、別筆など詳細なデータ、および釈文の訂正案をしめし、出土状況を踏まえてこの名簿の性格を再考した。本調査結果については所蔵機関と協議のうえ、正式に公表したい。 (2)これまで整理してき走馬楼呉簡の住民調査資料をもとに、三国呉の長沙における女性の婚姻行動を分析し、結婚・再婚による世帯の再編や、女性の世帯間移動の多さ、および再婚を批判するような行動規範は極めて限定的であったことを述べた。 なお、この他に中国での出版が遅れていた中文論文2本がようやく今年出版された。いずれも先行して日本語版を公表しているが、未成年による奉公や任官からみた社会的身分の流動性の問題、および走馬楼呉簡における複数のケイ簿の整理と比較検討の結果について広く学会に問う機会となった。
|