本研究課題「朝鮮北部地域社会史研究―19~20世紀初戸籍史料からの接近―」は,19世紀から20世紀初頭にかけての戸籍史料の分析をつうじて,朝鮮北部地域の社会編成および家族構造の特徴と,その歴史的変容を明らかにすることを目的としている。本研究は戸籍史料を中心とする史料の調査収集とその整理・分析が具体的な内容となる。 <史料の調査・整理>コロナウィルス感染症の影響で国内外での実地の史料調査はおこなえなかったが,関係機関のWeb上で公開されている史料を調査し,公刊史料集を購入した。また,あらたに存在の確認できた国立歴史民俗博物館所蔵の『平安南道孟山郡外南面戸籍』(1906年)・『全羅北道任実郡下雲面戸籍』(1904年)の複写資料を入手し,整理・分析を進めた。 <史料の分析と研究成果の公表> 本課題と関連した研究として,国立歴史民俗博物館に所蔵されている1906年の北部平安南道孟山郡の戸籍を分析した「朝鮮新式戸籍関連資料の基礎的研究(4) : 国立歴史民俗博物館所蔵1906年平安南道孟山郡外南面戸籍」を発表した(『環日本海研究年報』27)。本戸籍は従来存在を知られておらず,本稿がはじめての紹介となる。本課題とかかわる主要な論点をあげると,本戸籍は新式戸籍として標準的な様式であり,戸口調査規則・戸口調査細則にもとづく戸口調査と戸籍の編籍が1906年のこの地域でも確実に実施されていたことを確認できた。第二に,戸口数は18世紀の戸口記録や1907〜1910年に警察力を動員して実施された調査よりも少ないものの,他地域にくらべると戸口数,とくに戸数の変動幅が小さく,1906年時点での把握率が比較的高かったことを予想させる。第三に,戸主の職業はほぼ全員が「農」と記載しているが,戸主の12.5%は「幼学」も併記しており,何らか社会的・経済的な差異を反映している可能性が想定された。
|