本研究課題は、ムガル帝国時代(近世)に著されたペルシア語の地方史叙述にかかる文献資料を主たる調査対象として、帝国の威信を背景にした歴史叙述が南アジア各地方の過去を帝国の秩序に再編成していったプロセスを解明することが目的である。また主要なインド諸語の文献群における歴史叙述を採集することによって、近世南アジアにおける地方史叙述の形成と展開に関する総合的な基礎資料群を得ることも本研究課題の目的である。2021年度においては、研究期間を延長した上で、昨年度までの研究の進捗と感染症の状況を踏まえて、ペルシア語の歴史文献を根拠資料として、各地方史に関する歴史叙述を整理する作業をさらに進めた。 昨年度までの作業の継続として、インド通史の一部を構成するものから、単体として著作された地方歴史書に至るまでを調査対象として、整備済みの資料の整理・分析、および欧州の研究機関に所蔵される関係資料を、マイクロフィルムやデジタル画像等の媒体によって整理・分析する作業を進めた。インドの研究機関に所蔵される研究資料を実地に調査する計画は、感染症のために実施することはできなかったが、上記のような整備済み資料の整理・分析によって、一定程度、その欠を補うことができた。 一方、昨年度までの作業の結果、地方史叙述の要素が流れ込んだ文献群として、16-17世紀に現れたポルトガル語文献の重要性が明らかになってきたので、ポルトガル語の主要な編纂史料の基礎的な整理をさらに進めるため、複数の史料の古版本の入力作業をアルバイトに行わせた。一方、近代インド諸語文献については昨年度までに収集した、初動の参考資料となるべきカタログ、参考書誌をもとに、研究に資する個別の一次文献群の検討をさらに進めた。また研究のとりまとめに資するべく、最新の研究動向をフォローするため、研究課題に直接、間接に関連する二次資料も併せて整備した。
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