研究課題/領域番号 |
17K03134
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
吉尾 寛 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 教授 (40158390)
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研究分担者 |
堀 美菜 高知大学, 教育研究部総合科学系黒潮圏科学部門, 講師 (60582476)
松浦 章 関西大学, 東西学術研究所, 客員研究員 (70121895)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 黒潮 / 高知 / 台湾 / 宜蘭 / 南方澳 / 漁業 / 移民 |
研究実績の概要 |
①代表者吉尾寛が、昨年度研究協力者公文豪氏(高知近代史研究会会長)との調査、又土佐清水郷土史研究会の支援を得て見出すにいたった、当該の漁民の出身地就中高知県土佐清水市(松尾等)ならびに同黒潮町の複数の当事者・遺族に対して、2018年6月(2度)、7月、2019年1月に聞き取り調査を行った。その中で、南方澳出生を確認できる戸籍謄本など本テーマに直結する資料(PDF)を把握するとともに、当地で生まれ現在も当時の事情を具体的に語っていただける方(1名)に辿り着いた。そこで得た情報は、昨年訪問した南方澳郷土史家から聞いた内容と符号するものであり(沖縄漁民の雇用等)、加えて、居住地(一戸建てと集合住宅)の位置、移住した婦人の副業(鰹節工場での労働等)、原住民(「生蕃」)との関わり、当時南方澳に在った日本軍兵営の関係者との交流、米軍の空襲下の状況、日本への「引き揚げ」等に関する新たな事実であった。そして、それらは他の高知県関係者の話と基本的に合致するものであった。 ②2018年8月台湾側の研究協力者台湾海洋大学卞鳳圭教授と、宜蘭大学の教授(漁業史)の協力を得て南方澳を再訪した。前年同様当地の郷土史家(南方澳 商圏発展協会理事長兼南方澳文史工作室・三剛鉄工廠文物館長、元南興社区発展協会理事長)に対して、上記②の高知県側の調査内容を紹介した。今年度は、高知県での調査に対応する形で、南方澳の側で当時の日本人漁民に関して記憶のある方(1名)が紹介され、始めて聞き取りを行った。蘇澳鎮に在った小学校の事、鰹節工場の位置等の情報を得た。吉尾は当日から翌日にかけて南方澳のほぼ全市街地街を踏査した。 ③本年度は代表者、分担者、研究協力者がそれぞれ本テーマの直接的な研究成果を発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①前年度からの高知県内関係の地区の郷土史家および郷土史研究会の協力にもとづいて、本県内の当事者(曾ての移住者)家族に対する集中的継続的な聞き取りを行なうことができた(次年度にも予定されている)。 ②①を通じて、新たな知見、例えば居住地は集合住宅だけでなく一戸建て住宅のものもあり移住した時期(世代)の差によって地区も異なっていた可能性があること、日本軍兵営が設置された後は(設置年は調査中)軍関係者とも食事提供など生活上の交流があったこと、移住者は「山」から農作物を持ってくる原住民(「生蕃」)とも生活上交わっていたこと、「引き揚げ」時の状況等である。 ③南方澳側で、当時の日本人漁民に関して記憶のある方から始めて聞き取りをし、蘇澳鎮に在った小学校(南方澳分校)の様子、鰹節工場の位置等を知る。 ④②、③より、高知県側(土佐清水市、黒潮町)、南方澳側の関係者の情報が合致する点、逆にいずれかの当事者からしか得られない情報などが重なり合って、当時の南方澳の日本人移民の生活等が具体的に浮かび上がってきている。
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今後の研究の推進方策 |
①前年度以来構築されている高知県内の土佐清水市、黒潮町、片や南方澳の協力者との人的ネットワークにもとづいて、より多くのインフォーマントから情報の提供を受けられるよう努めるが、重点は、現在提供されつつある個別事例の立体的な把握に置く。 ②資料に関しても、引き続き台湾国立図書館、台湾大学図書館、中央研究院台湾史研究所および宜蘭県史館等においても調査を進める。特に、本研究のテーマに関する台湾の研究の到達点を確認する。 ③これまでの調査内容を踏まえて、従前の台湾側の研究では必ずしも具体的に把握されていない思われる当時の南方澳における高知県等日本人移民の居住区(漁港としての設備等との関係を含む)の具体を明らかにする。 ④今年度は最終年度であり、できれば成果公表において高知県内、台湾側それぞれで縁のある場所で報告会を計画したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
①2018年度、研究代表者吉尾寛が海外研修のための学生引率(2回)や、人員不足にもとづく入試業務に通年従事せねばならなくなり、そのため、海外(特に欧米圏)の漁業移民に関する文献調査を企画、実施する時間が十分にとれなかった。さらには、本研究の分担者、国内外の協力者が一同に集まり活動方針を集中審議する機会を設けるに至らなかった。また、高知県内、又台湾の関係地域に直接出向く調査の回数も最小限に止まった。 ②最終年度の次年度は、分担者、高知県内・台湾側の各研究協力者との協議を強化し(対面での打ち合わせなど)、「8.」の④に述べたように、最終年度の研究成果の公表に力を注ぐ。
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