近代南アジアでは、顕著な社会性や政治性を帯同しながら流通し消費される軽工業製品が見られた。本研究課題の目的は、そうした雑貨商品群に焦点を当て、特に、そうした商品の消費を通じて発現した中下層の人々の社会・文化的動態や、それに連動した商品・市場の多様性・複合性・重層性、連動した様々な経済的動態を分析することであり、2020年度も、そうした課題の探求を行った。 低価格帯タバコであるビーディー(ビーリー)に関しては、統計資料等の分析を行った(報告「英領インド期中央州における農林工関係:ビーリー製造業の台頭に伴う動態に即して」人間文化研究機構「南アジア地域研究」京都大学中心拠点)。19世紀後半に遡及される鉄道網という物流インフラと商人ネットワークによるその援用があったこと、インド内に特定の集中的生産地の形成が見られ、それが在地の自然環境や人的な構成・動態と関係したことなどを明らかにした。 この他、マッチ(燐寸)やガラス製品(装身具など)など、低価格帯の雑貨商品群の一翼を担った日本製品(輸入)やその物流を担ったインド人商人・移民に関係して、前年度の社会経済史学会のパネルでの報告「ネットワークと地域:インド人商人と神戸/兵庫県に関する研究からの視座」を発展的させた「近現代横浜・神戸における移民の多様性:その類似点と相違点」(共著)が『社会経済史学』での掲載が決まったところである。また、インド人商人・移民の歴史的機能について、包括的な視点で、「印僑」が『社会経済史学事典』(丸善出版:2021年6月)での中項目として執筆・校正済みとなっている。 なお本科研は、2019年度までで終了だったところ、2019年度末に予定していたインド出張を新型コロナウィルスのため行うことが出来なかったことで、2020年度に持ち越したものだが、同地での感染拡大の継続のため、当該出張は行うことは出来なかった。
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