最終年度にあたる本年度は、これまでの研究で収集した史料および考察結果に依拠して研究成果の公表に努めた。本研究課題の遂行において重要な史料の一つであったムッラー・ムーサー・サイラーミーの『ハミード史』の序論の検討した学術論文を公表し、その中で天山北方の遊牧民(モンゴル/モグール、オイラト)の存在、及びそれらが形成した遊牧国家(モンゴル帝国、モグール・ウルス、ジューンガル)の統治を、天山山脈南方のオアシスに暮らすムスリム定住民が歴史的にどのように把握していたのかについても考察した。また内陸アジアの遊牧民との交渉が、清朝皇帝を指す満洲語の称号に影響を与え、本来のhanが回避され、ejenに代替・収斂していく傾向を明らかにした英語論文、及び旧稿の翻訳であるがオイラトの一支であるジャハチンの動静を検討した中国語論文を公表した。そのほか、研究報告を国内学会と国際学会(オンライン、中国北京)でそれぞれ一つおこない、研究成果の対外的な発信に注力した。 海外での調査・研究については、8月に予定していたパキスタン北部の調査は、出発直前に新型コロナウイルスに感染したため中止せざるを得なかったが、2月に台北に3週間滞在し、国立故宮博物院や中央研究院で史料調査を実施できた。また滞在中に中央研究院で二つの学術講演をおこなった。 本研究課題は全体で5年間(予定を1年間延長)に及んだ。コロナ禍の影響により計画の変更を余儀なくされ、海外の研究機関における未公刊史料の調査を十分に実施しえなかったが、かつて取り組んだ課題の再検証を通じて、外国語を含む複数の学術論文を公表することができた。また、研究期間終了後となるが、遊牧国家ジューンガルの崩壊とその意義を検討する英文単著の出版にも目途がついたので、継続して研究成果の公表に取り組んでいきたい。
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