研究実績の概要 |
本研究は、従来のアルジェリアの独立運動の研究には、独立運動に農村出身者を中心とする巨大な大衆が動員され、ジハード宣言などイスラーム・イデオロギーが大きな役割をはたした事実が明らかにされていない、という研究上の疑問と欠陥の事実の検証を踏まえて、新たな視点の提示をすることを主たる課題として研究を行った。具体的な研究方法は、アルジェリア農村に広がっていた民衆的イスラーム組織ザーウィヤに残された史料とスーフィー教団が発行した新聞の分析によって、農村出身の民衆たちが、いかなる民族意識を形成し、民族運動や独立運動に関与したか、を明らかにすることであった。Hamilのザーウィヤの青年たちは、教育プログラムにはない情報を、諸種の新聞や雑誌、ラジオ放送、ザーウィヤを訪れる外部の知識人やジャーナリストなどから入手しており、それらの情報が彼らの政治意識を高める上で大きな力になった。彼らが非合法下で発行していたal-Ruh紙には、その実態が記述されている。本研究では、この手書きの新聞を入手し、これまで明らかにされなかった農村の民衆たちの政治意識や民族意識の形成過程を明らかにすることができた。新聞からは、彼らがいかにして戦闘的な民族意識や独立運動の意志を形成していったかが明らかにされた。また彼らの中には1945年5月8日事件のデモへの参加という具体的な行動に移る者もいた。さらに、彼らが武装独立運動を志向していたことは、FLN中心の独立運動史観の再考を促すと言えよう。 本研究から得た成果は、Anticolonialisme et tendance politique des tariqas soufies et des zawiyas en Algerie(AJAMES,37-2, 2022)に論文として発表した。
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