本研究の課題は朝鮮の開港期・植民地時代(1876~1945年)においてミシンの需要が創出される過程を、ミシンの生産、流通、消費のありようを通して明らかにする。①ミシンの保有・普及率の推移、②ミシンの供給側であるミシン製造・販売会社のありようの究明、③ミシンの需要が創出されていく過程での内在的要因の究明、3点を研究期間内に明らかにすることである。 最終年度の令和元年においては、前年度に行われた文献調査および聞き取り、アンケートなど、調査での不足点の補足調査を行い、それまでに収集した資料の整理・分析を行った。 ①ミシンの保有・普及率の推移は完成に近い。 ②シンガーミシン、日本製ミシン、朝鮮製ミシン製造・販売会社のありようの究明もおおむねできた。 ③ミシンの需要が創出されていく過程での内在的要因の究明を衣服文化、普及の担い手たち(ミシン裁縫講習会)に焦点を当てて分析することにした。当時朝鮮服は日本の和服と異なって、ミシンで作ることができる衣服であった。つまり朝鮮服は機械がもつ近代的合理性をすぐ発揮できる性質を備えていたことで、朝鮮におけるミシンの消費市場が広がる潜在的基盤があった。例えば朝鮮の農村では、農繁期に臨時労働者を必要としたが、この労働の対価として、朝鮮服の縫製が用いられていたのである。ミシンを通して植民地朝鮮の女性の生活の一側面を究明することができた。『東亜日報』『朝鮮日報』社等の民族紙および社会運動団体主催の講習会の役割を明らかにした。
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