研究課題/領域番号 |
17K03146
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石黒 ひさ子 明治大学, 政治経済学部, 兼任講師 (30445861)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 墨書陶磁器 / 花押 / 綱 |
研究実績の概要 |
平成29年度は墨書陶磁器調査と研究発表を行った。調査については、8月20日から8月28日まで北京よび中国内蒙古自治区を訪問、集寧路遺跡及び燕家梁遺跡出土墨書陶磁器資料実見調査、故宮博物院、内蒙古博物院、内蒙古考古研究所等の研究者との学術情報交換を行った。9月4日から9月8日には韓国ソウルと慶州を訪問、国立中央博物館及び慶州新羅王宮遺跡にて墨書陶磁器及び墨書土器資料調査、高麗大学、国立慶州博物館等の研究者との学術情報交換を行った。9月11日には尼崎市埋蔵文化財センターを訪問、大物遺跡出土資料実見調査を実施した。12月24日から12月29日には台湾台北、澎湖島、台南を訪問、澎湖島出土の「綱」字墨書陶磁器等の資料実見調査、現地研究者との学術情報交換を行った。平成30年1月27日から2月3日には中国浙江省と江蘇省を訪問、蘇州太倉樊村涇遺跡出土陶磁器資料実見調査、現地研究者との学術情報交換の他、如東県国清寺遺跡を見学した。3月には奄美諸島を訪問、与路島出土の「綱」字資料を実見調査した。 研究発表については、平成29年6月に明治大学を訪問した上海博物館孫慰祖研究員の招聘により、10月28日から10月31日に浙江省杭州にて西レイ印社国際印学峰会に参加し、中国語での学術報告「墨書陶瓷上的花押和宋元花押印(墨書陶磁器における花押と宋元花押印)」を行った。本報告は同学会にて三等賞を受賞し、平成30年度中に論文集として刊行の予定である。なお西レイ印社国際印学峰会では日本から参加の石川日出志氏報告、大塚紀宣氏報告において中国語通訳も務めた。12月には寧波大学にて寧波大学外国語学院日本研究所主催の「寧波与日本文化交流史」シンポジウムに参加し、中国語での学術報告「墨書陶瓷和寧波(墨書陶磁器と寧波)」を行った。本報告内容は平成30年度中に寧波市文化局発行の雑誌『天一文苑』に掲載の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には上海市青龍鎮、江蘇省常州等の再調査と山東省板橋鎮遺跡、内蒙古自治区包頭市燕家梁遺跡の調査を予定していたが、山東省板橋鎮遺跡は現地状況等の理由から調査が難しく、内蒙古自治区包頭市燕家梁遺跡・集寧路遺跡にて実見調査を実施した。これらは元代の遺跡であり、パスパ文字墨書陶磁器への認識を深めた。上海・江蘇等の再調査では、その近隣で一昨年より発掘されている蘇州市太倉樊村涇遺跡について浙江省博物館で特別展が開催されたため、調査対象を太倉樊村涇遺跡に変更し、平成30年1月に調査を実施した。平成30年度予定の台湾澎湖島出土の墨書陶磁器調査は、現地機関との連絡状況から平成29年度中の調査が可能となり、実見調査を実施した。澎湖島出土の「綱」字墨書陶磁器博多遺跡との比較に重要な資料である。この調査に先行し平成29年9月には博多遺跡以外で唯一「丁綱」墨書陶磁器が出土している尼崎市大物遺跡出土資料の実見調査を実施し、2018年3月には奄美諸島を訪問、与路島出土の「綱」字資料を実見調査し、「博多綱首」と「綱」字墨書陶磁器の関連について認識を深めた。 また上海博物館孫慰祖研究員の知見を得て、岩手県立博物館太田コレクション(中国印)調査に参加し、墨書陶磁器の「花押」と宋元花押印の共通性を認識した。西レイ印社国際印学峰会で墨書陶磁器に見られる「花押」は宋人の花押であることを報告し、韓国国立中央博物館で見学した新安沈船出水資料についても紹介した。寧波大学「寧波与日本文化交流」シンポジウムでは、墨書陶磁器資料の様相を紹介し、寧波から出土する墨書陶磁器が極めて少数である点について、官との関わりを指摘した。太倉樊村涇遺跡出土墨書陶磁器も極めて少数であり、寧波に類似する。 以上の進捗状況から、予定通りに達成できなかった調査もあるが資料調査、研究発表等研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には多くの墨書陶磁器調査を実施したが、山東省板橋鎮遺跡は現地の保存状況等の理由から実施できなかった。内蒙古自治区包頭市燕家梁遺跡・集寧路遺跡調査では実見はできたが、燕家梁遺跡資料の写真撮影は許可されず、集寧路遺跡では内蒙古考古研究所所蔵資料は実見できたが、博物館内展示状態での見学のみで、展示品の出土詳細については不明であった。台湾澎湖島墨書陶磁器資料では資料所蔵機関とは問題は無かったが、資料を巡る複雑な人間関係のあることが判明した。以上のような問題から、海外出土の墨書陶磁器について資料実測や写真撮影を含む個別資料情報のデータベース化には困難が多いことが判明した。 そこで今後は墨書陶磁器の全体像を示す研究成果を目指すとともに、資料集成の進捗から得られたテーマによる研究実績の成果化を目標としたい。資料の検討方向として、「綱」字・「花押」という視点をすでに獲得し、「花押」については学術報告も実施した。「綱」字については博多遺跡の他、すでに尼崎、奄美、台湾で資料調査実施したが、長崎県白井川遺跡等からも「綱」字墨書陶磁器が発見され、また香港中文大学博物館所蔵品に「綱」字墨書陶磁器のあること、広州には「広州綱首」銘のある木像があることが確認されている。今後はこれら国内外の「綱」字関連資料の実見調査を実施し、「綱」字墨書陶磁器をテーマとした学術報告も行いたいと考えている。 さらに墨書陶磁器には「仏寺」からの出土が多いという特徴も明らかになりつつある。この点を確認するため河南省洛陽の白居易故居遺跡での実見調査を予定したい。白居易故居は宋代に寺となっていて、ここから墨書陶磁器が出土している。博多遺跡出土の墨書陶磁器にも仏教との関わりを示すものがあり、仏寺出土の墨書陶磁器の分析から、仏寺独自の語彙と墨書陶磁器の関係、仏寺における陶磁器の使用状況にも言及できるのではないかと予想している。
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