研究課題/領域番号 |
17K03147
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
飯山 知保 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20549513)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | モンゴル時代 / 非漢人 / 大清一統志 / 祖先伝承 |
研究実績の概要 |
清代後半においてモンゴル時代(元代)がいかに、そしてなぜ顕彰されたのか、陝西省大リ県拝氏および河南省濮陽県楊氏を中心に考察し、長期的な華北社会の歴史の中で、モンゴル時代に由来する祖先伝承が、現在の華北の人々に大きな影響を与えたことを論じた。 近年積極的に進められる現地調査により、実際には19世紀以前の華北において、モンゴル時代の記憶は、我々が想像するよりも広範に語り継がれており、20世紀に至る華北社会の歴史を理解するためには、モンゴル時代・明代の断絶を乗り越えて、通時的な問題設定をする必要が提唱されている。 また、1990年代以降の「尋根」などと呼ばれる、祖先の歴史を探索する機運の高まりの中で、大学や民間団体が中心となって、モンゴル時代に華北をはじめとした「中国」に移住してきた人々の後裔と、その根拠となる史料を収集する運動が行われ、その成果の一部は網羅的な事例集として刊行されもしている。 こうした中で興味深いのは、そうした収集された事例をみると、モンゴル時代の祖先の顕彰を記録する史料の作成が、陝西省大リ県拝氏および河南省濮陽県楊氏の事例を同じく、18世紀後半から19世紀半ばまで、皇帝の治世でいえば、乾隆年間の半ばから道光年間に集中している点である。この背景として、『大清一統志』の編纂と、それにともなう祖先伝承の顕彰が大きな役割を果たしたことを論じた。 モンゴル時代とは大規模な移民の流入が起きた、歴史上最後の時代であったことは、この地域におけるモンゴル時代の位置づけを考えるうえで、とくに留意すべき点であろう。祖先の顕彰という形でモンゴル時代以来の歴史を「再発見」することは、新興の家系にとって、地域社会における自らの地位を押し上げ、その規模を拡大するうえで好ましい戦略でもあったのではないだろうか。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
陝西省・河南省での3箇所での事例と、それに関連する史資料の収集は、ほぼ完了し、上記「研究実績の概要」で述べたように、その分析も部分的に出版した。しかし、新型コロナウイルス の流行による国際旅行の中断により、中国における現地調査が不可能である中、元来の研究計画の通り、さらに事例を増加させてゆくことが難しい。下記「今後の研究の推進方策」で述べるように、今後は研究の方策を変更してゆく。
|
今後の研究の推進方策 |
国際的な移動の制限が、少なくとも今年度は継続される見通しの中、現地調査の実施は見合わさざるを得ない。このため、碑刻史料集や家譜、そして祖先伝承を収集した書籍の購入に注力することとする。たとえば、元来の調査計画先のひとつであった汪氏の祠堂・墓地については、ショウ県の文物管理局によりまとまった量の資料集が出版されており、ネット上で購入が可能である。こうした県あるいはそれ以下のレベルでの出版物を、中国の協力者を介して、できるだけ収集してゆき、考察対象となる事例を増加させてゆく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス の流行による国際旅行の中断により、中国における現地調査が不可能となったため。
|