近代歴史学は,実証的科学的手法により厳正中立の実態を描き出すとして,その真正性を示すとしつつ,民族をアクターとする歴史叙述を生み出したことを,エーヤーワディー流域地方における,過去に関する語りとしての王統記(ヤーザウィン)や縁起(タマイン)などが,近代の国民国家史へと読みかえられていく過程を検討することにより,明らかにした。 それまで過去は,世の道理を説くためのものであったが,19世紀中期植民地権力によって導入された修史により,「ビルマ族の歴史」や「モン族の歴史」などを描くためのものになった。その結果,ミャンマー全体史はこれら諸民族による抗争の歴史として理解されるようになる。
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