研究課題/領域番号 |
17K03152
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
権 学俊 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (20381650)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 朝鮮人特攻隊員 / 歴史認識 / 太平洋戦争 / 忘却 / 記憶 |
研究実績の概要 |
20世紀初頭の日本による朝鮮植民地支配は、未だに政治的・歴史的な問題をめぐり多くの論争がなされている。同時に、多岐にわたる研究によって植民地政策の様々な側面が明らかになりつつある。しかし、戦後日本と韓国社会において朝鮮人特攻隊員はどのようなプロセスを経て両国社会に受け入れられ、「発見」「消費」されたのか。日本と韓国における朝鮮人特攻隊員に対するイメージが戦前から現在までどのような変容を遂げたのか。その史的プロセスや社会的力学については、歴史社会学的な検証が進んでいるとは言い難い。本研究は、日韓両国における朝鮮人特攻隊員の存在・意味を、歴史社会学的に検証する。朝鮮人特攻隊員の多角的な分析を通して、戦後日本社会と韓国社会における「戦争の記憶の力学と構造」を明らかにする。上記のような研究目的に基づいて、平成29年度は主に「朝鮮人特攻隊員の存在とその歴史的実態」究明を試みた。それぞれの地域で朝鮮人特攻隊員が誕生されるプロセスと、そこに浮かびあがる地域や当事者の言説を洗い出すため、以下の作業を行った。 今年は、研究開始に当たり、研究条件を整え、朝鮮人特攻隊員に関する資史料の範囲、対象を精査して関連言説を現地図書館・文書館・資料館等で調査した。特に、韓国と日本の公文書館・図書館・資料館で、朝鮮人特攻隊員に関する当時の公文書を入手するとともに、地元紙での朝鮮人特攻隊員関連記事を時系列的に入手・整理・分析した。また、日本と韓国における朝鮮人特攻隊員性格・研究状況についてサーベイするとともに、映画・ドラマ・文学・マンガ・新聞で、朝鮮人特攻隊員にまつわる戦史がどう扱われたのかを時系列的に洗い出した。今年一番大きな成果は、何回にわたって行った韓国調査で、朝鮮人特攻隊員の遺族や関係者への聞き取りができた点である。この成果は次年度論文としてまとめて発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、朝鮮人特攻隊員一人を個別研究として仕上げることではなく、「特攻死」と認定された17名の包括的分析、すなわち「同化」政治の力学、植民地政策史上の位置、植民地支配の一翼としての特攻隊員の存在、大衆動員のメカニズム等々にわたる分析を通じて、日本と植民地朝鮮の社会的特質、同調構造の動態と歴史変化とを浮き彫りにすることにあるため、高いチャンレンジ性を持っている。平成29年度はいまだその存在すら明らかになってない旧植民地・占領地(旧外地)であった台湾やインドネシア等の特攻隊員調査・データ化することができなかったものの、今年の研究成果を韓国学会で発表する等おおねむ順調に進展していると評価できよう。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は1940年代航空熱を助長するための植民地朝鮮における航空政策、学校における航空教育の性格、朝鮮の雑誌と新聞に頻繁に登場した飛行機と操縦士に関する言説、朝鮮の子供たちの夢であった航空兵志願等を分析する。さらに、日韓メディアがいつから、いかに朝鮮人特攻隊員を発見し、描いたのか。両国のメディアが朝鮮人特攻隊員とその記憶をどう扱ってきたのか、日韓両国メディアにおける朝鮮人特攻隊員の言説・表象について詳細に検討したい。そのため以下のように検証する。まず、戦後日本と韓国の地域紙や全国紙における関連記事を時系列的に洗い出し、両国の相違を検討する。映画・ドラマ・文学・マンガで、朝鮮人特攻隊員にまつわる戦史がどう扱われたのかを調査する。朝鮮人特攻隊員の扱いを時系列的に洗い出すほか、主要ウェブサイトの言説も調査する。これらの分析を通して、日韓メディアが作り出す朝鮮人特攻隊員に対する言説・表象はいかに相違していたのかを明らかにしたい。 また、日韓両国における朝鮮人特攻隊員の政治・文化的脈略と位置についても分析を進めていきたい。朝鮮人特攻隊員が両国社会でどのように位置付けられ、受け止められてきたのか。両国国民がいかなる社会背景のもと、朝鮮人特攻隊員をどう捉えたのかについて調査を行うとともに、朝鮮人特攻隊員が持つ歴史性と社会性、国民の受け止め方について明らかにする。次年度は、台湾・インドネシアの特攻隊員(ドイツ等欧米の戦争観調査も行う)についても資料収集を行うとともに、日韓両国における朝鮮人特攻隊員に対するイメージが戦前から現在までどのような変容を遂げたのかをもっと詳細に考察・分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度研究では、歴史社会学・アジア史分野の中で、いまだその存在が明らかになってない旧植民地・占領地(旧外地)であった台湾の特攻隊員についても資料収集・データ化を行う予定であったが、韓国における朝鮮人特攻隊員の分析に集中したため資料収集を行なうことができなかった。日韓両国における記憶のずれを浮き彫りにするとともに、台湾における特攻隊員の存在を明らかにすることは、戦後日本における記憶の構築過程を相対化し、アジア地域のなかでの位置づけを浮き彫りにする点から重要な意味を持つ。このことは同時に、日本やアジアの歴史認識を、現在の価値規範から問うのではなく、当時の社会的な文脈から捉え直し、歴史認識が捻じれるに至った要因やプロセスを明らかにすることにもつながるものである。そのため、平成30年度は、台湾における特攻隊員についても台湾の資料館・図書館・公文書館で関連資料(台湾総督府の機関紙、地元新聞、議会記録等)を収集するほか、関係者への聞き取り調査を行う。また、ドイツ等の戦争観・戦争責任問題、歴史認識等についても海外調査を行う。
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