研究課題/領域番号 |
17K03156
|
研究機関 | 名桜大学 |
研究代表者 |
坪井 祐司 名桜大学, 国際学部, 上級准教授 (70565796)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | マレーシア / ジャウィ / メディア |
研究実績の概要 |
イギリスのマラヤにおける植民地統治とそれに対するマレー・ムスリムの政治思想・運動について、以下の3つの方向から研究活動を行った。 1.1950、60年代にシンガポールで発行されたジャウィ(アラビア文字表記のマレー語)の月刊誌『カラム』の分析を進めた。京都大学東南アジア地域研究研究所・CIRASセンター共同研究「東南アジアの脱植民地化におけるイスラムと政治」(2019年度)の研究代表者を務め、共同研究者と連携しながら、①『カラム』雑誌記事データベース(http://majalahqalam.kyoto.jp/)により抽出した「イスラム国家」に関する記事を通じたマレー・ムスリム知識人の国家像の分析、②同誌の読者の質問に対して編集者が回答するQ&Aコーナー「千一問」記事の翻訳による資料の整理・共有を行った。この成果は、2020年3月に発行されたディスカッションペーパー(『カラムの時代XI』)に論文および資料紹介として発表した。 2.1930年代にクアラルンプルで発行された新聞『マジュリス』をとりあげ、イギリス政府への働きかけにおける民族間の競合の事例を分析した。そこから、植民地都市クアラルンプルの多民族社会におけるマレー民族の政治的主張が形成される過程を明らかにした。この成果は、東洋文庫発行の英語論文集に一章を寄稿することで発表した。また、2019年7月の世界規模のアジア研究の国際学会(ICAS11)において、国際問題の記事からうかがえる同紙の世界観について発表を行った。 3.マラヤにおけるイギリスの植民地統治の思想について、シンガポールの建設者ラッフルズの生涯を東南アジア史およびマレー人社会の角度から描いた書籍(山川世界史リブレット人シリーズ)を刊行した。ラッフルズに代表される19世紀イギリスの価値観が現在にまでシンガポール・マレーシアの社会に影響を与えていることを指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間を通じて、国内外の研究者や研究機関とのネットワークの構築、マレーシア、シンガポールの図書館や文書館における資料収集、成果の公表のための国際学会における発表および論文の執筆を行ってきた。 研究成果として想定していたのは、①マレー・インドネシア語の言論空間の解明、②言論空間を通じた多民族社会のあり方の解明、③当該時期の政治・社会史の再検討であった。この成果を達成するために、主に植民地行政の資料および1930年代の『マジュリス』や1950、60年代の『カラム』というマレー語定期刊行物の分析を行った。その成果は、学会発表および論文を通じて発表してきた。 ①については、二つのマレー語の新聞・雑誌の論説が多くの他媒体の引用を含むことを示すとともに、そのテキスト連関の分析を行うことで、マレー・インドネシア語の定期刊行物が一つの言論空間を形成していたことを明らかにした。②についても、マレー語メディアが英語メディアを相手に行っていた論争を通じて、マレー語の言論空間は英語の言論空間ともつながっており、マラヤ全体における多言語の言論空間の一部であったことを示した。そして、マレー民族がイギリス政府を媒介して華人など他民族の動向を常に参照し合いながら競合・交渉してきたことが明らかにした。以上から、①と②はおおむね達成されたと考えられる。 ③については、マレー語ジャーナリズムの展開を通して、当時の植民地政策の実態やマレー人を軸とした民族間関係のあり方を描くことで明らかにしようとしてきた。イギリスの植民地統治についての書籍を刊行したこともあわせて、これまで植民地統治とマレー・ナショナリズムの相互作用をある程度明らかにできたと考えるが、総合的な歴史叙述という点ではまだ不十分であり、植民地統治側からの研究を含める形で総合化する必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は今年度で終了の予定であったが、新型コロナ感染症の拡大の影響により予定としていた海外出張を取りやめたため、延長申請を行い、2020年度まで研究活動を継続することとした。次年度は、海外出張を行える状況になった場合は、主に植民地行政に関する追加的な史料収集を行う。ただし、行えない場合も想定して、すでに収集した資料をもとに成果をまとめる作業を行う。その場合、研究協力者も含めた論考を統合し、より包括的な研究成果の発表を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響で海外出張を取りやめたため、予定していた予算が執行できなかった。このため、研究期間を1年間延長し、次年度に使用する。
|