最終年度は、研究成果のまとめと発信に注力した。 2021年8月に、マレーシア社会科学学会が主催する第12回マレーシア研究会議(MSC12)にオンラインで参加し、英語による発表を行った。発表では、マラヤの脱植民地期におけるイスラム主義者の国家構想について分析した。イスラム主義的なマレー語雑誌は、中東のイスラム改革思想の影響を受けるかたわら、言語を共有するインドネシアの言論を参照しており、多様なつながりを持っていた。雑誌記事の分析を通じて、マラヤのイスラム主義者が外部のイスラム国家概念を紹介しつつ、それをマラヤという自国の枠組みに適合させ、独自の国家構想を提示しようとしたことを明らかにした。発表論文は、同学会のEプロシーティングスに採録された。 くわえて、京都大学東南アジア地域研究研究所の共同研究に参加し、その成果としてディスカッションペーパーに寄稿した。そこでは、1950、60年代のマレー語誌『カラム』の読者投稿のQ&Aコーナーの着目し、そこでのイスラム国家構想をめぐる質疑応答を分析した。そして、読者が身近な事象とイスラムの関係について関心を持っていること、それに対して同誌のイスラム知識人は、理念と現実を分けつつイスラム的な概念を解釈し、マラヤ社会に適用しようとしているかについて明らかにした。 本研究を通じて、イギリス統治下のマラヤ・シンガポールにおけるマレー語定期刊行物が、マレー・ムスリム世界、イスラム世界、イギリスの植民地近代という3つの世界をマレー語言説によってつなぐ役割を果たしていたことを示した。 このほかに、東南アジア学会の学会誌に、英領マラヤの植民地史に関する研究書の書評を執筆した。日本シンガポール協会の会誌において、近代シンガポールの建設者ラッフルズの歴史的役割について紹介する連載記事を寄稿した。
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