本研究では、19世紀フランス南部山岳地オート=ザルプ県を対象として、水害対策という公益を目的とした荒廃山岳地における植林事業と、その事業の犠牲となる私益である牧野住民における家畜放牧経営との相克を分析した。公益と私益の融和のために当時のフランスでは酪農組合を普及させることで山岳地農村の活性化を目指した。その結果、経済的立地に恵まれた農村においては、酪農組合の一定程度の発展を実現できたが、山岳地の荒廃が進行し、植林事業が危急のものとなっていた農村においては、経済的立地条件もまた同時に不利であったがゆえに酪農組合の展開を実現させることができず、かえって、その衰萎をもたらしたことを明らかにした。
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