研究課題/領域番号 |
17K03163
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西川 杉子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80324888)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ユグノー / 18世紀 / 歴史意識 / ネットワーク / アイデンティティ / ユグノー協会 / ハノーヴァー朝 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、この科研のテーマである18世紀後半から19世紀にかけてのユグノー亡命者の子孫の活動について、3点から手がかりを得ることができた。一つはユグノー亡命者の子孫らによって設立された救貧委員会およびユグノー・ホスピタル所蔵の史料調査(英国サリー州キューにある英国国立文書館内のユグノー文庫所蔵)により、18世紀の救貧委員会の活動およびユグノー・ホスピタルの運営と並行して、これら子孫の間に、後のユグノー研究の中心的学術団体ユグノー協会の設立につながる動きの発生を確認できたことである。これについては、18世紀後半から19世紀にかけて、子孫たちの間に自分たちのアイデンティティを模索する歴史意識が生まれつつあったのではないかと仮定している。2点目は、18世紀後半のイギリス政府およびイングランド国教会によるヨーロッパ大陸のプロテスタント救済は、これら子孫に担われたことが、ユグノー文庫の資料により改めて確認できたことである。3点目は、ユグノーの子孫のネットワークが宮廷で影響をもっていたことを示唆する資料をみつけることができたことである。特に18世紀半ばのザールブリュッケンのプロテスナント教会援助については、王族の女性たちのネットワークとユグノーのネットワークが関わりあったのではないかと推測している。今後、以上の3点について資料調査を継続することにより、18/19世紀におけるユグノー・ネットワークの影響を明らかにすることが期待できる。なお、この科研テーマの前提となったプロテスタント・ネットワーク研究については、3点の英語論文の形で発表することができ、デプレツェン改革派カレッジのエイブラハム・コヴァーチ博士やダブリン・トリニティ・カレッジのグレアム・マードック博士など海外の研究者からも示唆をえることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、3回、海外での短期調査をおこなった。特に、英国サリー州の英国公立文書館内のユグノー文庫において、18世紀から19世紀の救貧委員会およびユグノー・ホスピタルの調査を行い、改めて同文庫の資料群が非常に重要であることが判明した。しかし、ユグノー文庫は8月はほとんど開室しておらず(それ以外の時期でも週2回しか開室日はない)、学期中の海外渡航を本務校が制限をしているために、あわせて5日間分ほどしか調査を行えなかった。また、ドイツのザールブリュッケン改革派教会での調査は、同教会の牧師が病気であったため、一次資料をみることができず、二次文献の収集に終わった。現在のところ、ザールブリュッケンの救援については、ユグノー・ネットワークがイギリス王族に働きかけたのではないかと推測しているが、それを裏付ける資料を調査する時間はなく、発見には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度中に、イギリスのユグノーの慈善活動について詳しいテッサ・マードック博士に情報交換の機会をもち、18世紀後半から19世紀にかけてのユグノー子孫と政治家やイギリス王族の関係について、資料調査の手がかりを得たい。そして29年度の資料調査で得た一次資料・二次文献の分析をすすめ、その上で、ドイツのザールブリュッケンやハンガリーのデプレツェンへの援助およびイングランド国教会のヨーロッパ管区設立等の背景の調査を進めていく。また、イギリスのユグノー協会の設立とともにフランスのユグノー子孫の協会についても調査を行う。
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