研究課題/領域番号 |
17K03164
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋場 弦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10212135)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アテナイ / 民主政 / 無頭性 / リーダーシップ |
研究実績の概要 |
今年度にあっては、無頭性の原則が、中央政府と地方政府との双方のレベルにおいて、どの程度まで貫徹していたのか、あるいは逆に、無頭性よりも個人のリーダーシップを尊重するケースがどの程度まで確認できるかを、主としてアテナイ民主政を事例として取り上げ、前年度から引き続き調査研究した。用いた史料は主としてアテナイの国家決議(OR120、RO26など)や、デーモス(区)の区民会決議(スカンボニダイ区民会決議、ピレウス区民会決議、ハライアイクソニデス区民会決議など)であったが、同時にアテナイ以外のポリス、たとえば前4世紀以降アテナイ型の民主政を採用してその徹底に至った、小アジアのイアソスの碑文(IK Iasos 42など)をも考察の対象に含めることにした。その結果、前5世紀よりも、前4世紀に入ってからの方が、よりいっそう無頭性の原則が徹底しているらしいこと、それも中央よりも地方の方が、原則的に維持されているらしいことが明らかになった。他方、中央の国家決議のレベルでは、やはり名望家の個人によるイニシャティブが尊重される傾向にあり、個人による名誉追求とそれに対する国家の称賛とは、民主政を実際に動かす原動力でもあったことは否定しがたい。数多くの顕彰決議はそのことを多く物語っているようである。他方で、アテナイ以外のポリスで同様のことが起こっていたかどうかは、アテナイに比較すると史料が圧倒的に不足していることもあり、碑文史料だけからでは確認は困難であった。以上の問題関心から、2018年9月にはダラム大学名誉教授で英国学士院会員のP.J. Rhodes教授を東京大学に招き、二度にわたって講演・セミナーを開催し、また2019年3月にはケンブリッジにP.A. Cartledge教授を訪問して意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
碑文史料による史料分析は順調に推移している。また古典史料については、弁論史料、とくにアテナイのデーモス(区)に関わる裁判資料として、デモステネス弁論57番『エウブリデスに対する上訴』をもちいた分析を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
おおむねこれまでどおりと同様、当初の計画に従って研究を遂行し、最終年度には研究のまとめを行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に関しては、当初予定していたギリシア共和国への調査出張を、現地情勢の不安定化などに鑑み取りやめたこと、またドイツ・英国出張に予算ほどは費用がかからなかったことから、余剰が生じた。しかし次年度においては、その分をさらなる海外出張に使う予定である。
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