当該年度の作業は、研究費助成期間の終了と同時に刊行予定の本研究課題の成果『フランク史 1. クローヴィス以前』(名古屋大学出版会刊行予定)のうち、第4章ゲルマン諸部族の再編へ、第5章侵略と土地占取の時代、第6章帝国に奉仕するフランク人、第7章フランク首長層の台頭と転落、第8章 5世紀初頭の政治動向とガリア、第9章西ローマ帝国、ヴァンダル族、フン族、第10章メロヴィング王朝の起源とキルデリクス一世の全7章を執筆し、完成した。この研究で明らかにしえた点は少なくない。第1は考古学の著しい発展により、先史学と歴史学を接合する試みが、成功したと思われる点である。これによってこれまで未解明の北東ヨーロッパのギリシアを初めとする地中海世界との結びつきを、「琥珀交易」の実態を手がかりに、いかに密接であったかを明らかにできた。第2は「フランク人」と称される民族集団の構造を明らかにし、それが二次的な政治ブントであったことを明らかにした点。第3は西ローマ帝国を枠組みとして、その解体過程をこれまで我が国でなされたことがないレベルで明らかにした点。第4にメロヴィング王朝の事実上の開祖となったキルデリクス1世の生涯をこれまた、初めて解明したこと。第5に、これが最大の発見であるが、旧来のメロヴィング王朝史観の根底をなす、王統がサリー・フランク人の系譜を引いているという通説を否定し、ライン・フランク人であったクロディオに帰することを、説得的に論証できた点などである。
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