• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2018 年度 実施状況報告書

ドイツ中世後期における多元的コミュニケーションと政治秩序

研究課題

研究課題/領域番号 17K03171
研究機関京都大学

研究代表者

服部 良久  京都大学, 文学研究科, 名誉教授 (80122365)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード中世後期 / ドイツ / コミュニケーション / 政治秩序 / アイデンティティ / 多元性
研究実績の概要

ルクセンブルク朝カール4世時代の神聖ローマ帝国の政治的コミュニケーションと秩序を、地域間の政治的、経済的構造の相違が与える影響を踏まえて考察した。カール4世はあらたな皇帝政治の家門的基盤としたボヘミアの中心、プラハを、劇場効果を持つ首都宮廷都市として整備を進めた。このことを、カールの娘婿でもあるハプスブルク家オーストリアの君主、ルードルフ4世支配下に首都宮廷としての景観と機能を強めたヴィーンと比較しつつ考察した。
とりわけ二つの「首都宮廷」が政治のみならず宗教的、文化的なコミュニケーション・センターとして重要な役割を果たしたことを明らかにした。こうした中央宮廷と中心都市のプレゼンスが強い帝国東部領邦に対して、王権の影響力が希薄で、権力関係が錯綜する帝国西部については、中小領邦、有力貴族、都市同盟のネットワークの展開に着目した。 カール4世没後の国王ヴェンツェル(1378-1400) 時代には経済力を背景に政治的アクターとして集団的な影響力を強める都市同盟と、騎士・貴族、諸侯の争いがインターローカルな広がりを示し、従来のローカルな紛争収拾のためのコミュニケーションが対応でなくなったこと、王ヴェンツェルもまたボヘミアの問題に忙殺され、こうした帝国西部の問題に対応できなかったこと、シュヴァーベン、ライン都市同盟を中心に、貴族、諸侯が同盟と対立、休戦、和解を繰り返すというインテンシヴなコミュニケーション行為の繰り返しのなかから、「国王不在の王国集会」「ヴェンツェルの廃位」に見られる、王権から相対的に自立した政治秩序が経験的に生み出されることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

皇帝カール4世~国王ヴェンツェルのルクセンブルク王朝時代の神聖ローマ帝国について、一方でカールと、その同時代の有力諸侯(領邦君主)であるハプスブルク家のルードルフ4世の独特のパフォーマティヴな、可視的、儀礼的コミュニケーションの特質を明らかにできた。また他方で、ルクセンブルク朝皇帝(王)のボヘミア、帝国東部における王朝的家門政策の新展開としてのみならず、帝国西部の政治、社会状況から生じる問題に、皇帝(王)権が対応し得ない場合には、紛争と平和の繰り返しの中で、帝国の秩序を担うアクターたちの自律的なコミュニケーションが、以後あらたな政治秩序を模索しつつ展開するという15世紀への展望を得ることができた。
2月にはドイツのベルリン大学フリードリヒ・マイネッケ研究所、およびミュンスター大学で、レン・スケイルズ教授、ルーカス・ヴォルフィンガー研究員から研究状況について肯定的な評価と助言を受け、細部についていくつかの提案を得ることができた。

今後の研究の推進方策

ヴェンツェル廃位の後、ルプレヒト、ヨプストの短い治世を経て1411年に即位したヴェンツェルの弟、国王(皇帝)ジギスムント以後、中世末期(宗教改革前)までの多元的なコミュニケーションと帝国の政治秩序の展開を考察する。ジギスムントはコンスタンツ公会議を開き、シスマの解決に貢献、この間、パリ、ロンドンを訪れて英仏王と交渉するなど精力的に行動した。この公会議を構成する4つの「国民団natio」の第一は「ドイツ国民団」であり、またこのころフス戦争や、帝国西部におけるブルゴーニュ公国の脅威と関連すると思われる「ドイツ国民の神聖ローマ帝国」という表現が頻出する。このように、いっそう稠密化するコミュニケーション状況をふまえ、諸侯、帝国都市民、知識人の行動と言説、帝国議会の議論、そして1440年頃成立し教会の改革と新たな秩序のヴィジョンを示す帝国改革文書「Reformatio Sigismundi」等を手がかりに、同時代の一層広範な政治主体が現状として認識し、あるいは希求する帝国の政治秩序秩やアイデンティティ、帝国意識を明らかにする。
総括として、「帝国-領邦」という二元論を越える多元的な政治主体のインタラクティヴなコミュニケーション、共同行為と秩序意識、国王・皇帝に期待され要請される統治行為をふまえ、中世後期のドイツ(帝国)政治史の新たな輪郭を示し、残された研究課題を提示することをめざす。
12月には二人の中世後期研究者をイギリス、ドイツから招聘し、ドイツ中世後期法制史の専門家である北海道大学の田口正樹氏をもゲストに迎え、京都大学においてワークショップを行う。研究代表者、服部は主に、2017, 2018年度の成果に基づき、基調報告を行う。ワークショップの成果は年度末に紙媒体で公にする。

次年度使用額が生じた理由

外国旅費について、当初の計画よりも旅行日数が短くなり、また航空運賃も安価であったのでこの金額が生じた。
次年度には、海外からの2名、国内からの1名のゲストの招聘とワークショップの開催費用にこの金額を補填する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] 「最愛の妻」にして「王国の共治者」-中世ドイツの国王夫妻-2019

    • 著者名/発表者名
      服部良久
    • 雑誌名

      立命館文学

      巻: 661 ページ: 54-80

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 書評 Masaki Taguchi, Koenigliche Gerichtsbarkeit und regionale Konfliktbeilegung im deutschen Spaetmittelalter: Die Regierungszeit Ludwigs des Bayern (1314-1347), Duncker & Humblot, Berlin 20172018

    • 著者名/発表者名
      服部良久
    • 雑誌名

      西洋史学

      巻: 265 ページ: 69-72

    • 査読あり

URL: 

公開日: 2019-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi