前4世紀アテナイの公私関係を、(1)女性にとっての市民権、(2)情報とコミュニケーション、(2)アテナイの法秩序と互酬性、(3)情報とコミュニケーションの3点から考察した。 (1)アポロドロス『ネアイラ弾劾』の邦訳および詳細な注釈、関連論文数本を出版した。非市民女性を対象とする同書を通して、女性市民も含めた市民社会のありかたと市民性についての見直しおこなった。女性市民権研究に先鞭をつけた、Blok教授とともに、ワークショップCitizenship and Participation in Classical Athensを開催した。 (2)単著『互酬性と古代民主制―アッティカ法廷弁論における「友愛」と「敵意」』を出版した。日常的な人的構造が、公的な言論の場である民衆法廷で、いかに「互酬性のレトリック」のもとに統合されていったのか、共助の論理にたつ公私の連続性と、公私の春別を併せ持つ公私の関係性のメカニズムを浮かび上がらせた。感情史やエゴ・ドキュメント研究との接合が課題となる。 (3)法廷における伝聞証拠、戦時の噂の利用と情報戦略について、それぞれ国際的な学会および国際共同プロジェクトで報告を行った。噂の利用と証拠について、本研究で得られた研究蓄積とネットワークを生かして、今後さらにアテナイにおける噂についての総合的な研究にとりくむ。またアテナイのメディア環境の特質を明らかにするために、「前近代におけるメディアとコミュニケーション」研究会(年4回)を立ち上げ、2年目には、日本西洋史学会で古代における間メディア性をテーマとする小シンポジウムを主催した。3年目には研究会を拡大し、中近世の南仏、イングランドなどの異なる書誌文化と政治体制をもつコミュニティの間で、情報の伝達にどのような特質が見られるのか、渡英して今後の、国際共同研究に向けての検討を行った。
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