研究課題/領域番号 |
17K03174
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
渡辺 和行 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (10167108)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自由フランス / レジスタンス / ジャン・ムーラン / 中央情報行動局 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、自由フランスによる国内レジスタンスの包摂過程を南ルートと北ルートに分割して検討し、国内レジスタンス諸組織の大同団結にいたるプロセスを明らかにすることであった。南ルートは、ドゴール将軍の代表ジャン・ムーラン個人が主導したが、北ルートは、ピエール・ブロソレットやパッシー大佐などが所属する中央情報行動局(BCRA)が先導した。 そこで平成29年度は、北ルートの解明の一端として先行研究を収集しつつ、自由フランスの情報機関であるBCRAの基本情報の把握をめざした。そのため、自由フランスやBCRAに関する基本文献の収集に努めた。とりわけ、BCRAの基本文献(セバスチャン・アルベルテリ『ドゴール将軍の秘密機関――BCRA1940-1944』2009年、フランス語版、617頁)を精読した。アルベルテリの研究によって、BCRAの誕生から組織の発展過程といったBCRAの実態、およびロンドンに成立した国民委員会内務委員部とBCRAとの協業関係のみならず競合関係をも理解することができた。さらにBCRAの局長であったパッシー大佐の回想録(2000年、フランス語版、806頁)を読破し、局長パッシー大佐の目から見た戦局や諜報活動の実態、BCRA内部の意見対立や個人的な人間関係などを把握することができた。 解明しきれなかった点は、フランスに派遣されたBCRAのエージェントとロンドンのBCRA本部との暗号電報によるやり取りがあるが、膨大な電報を取捨選択する視点に磨きをかけることが求められるだろう。ただ、やみくもに一次史料に当たっても生産性は低いので、立てた問いに応じて史料のプライオリティーが決まるということを肝に銘じ、「初めに問いありき」という姿勢を維持しつつ、しっかりと史料を読み込んでいくことが次年度の課題だろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように、BCRAの基本文献であるアルベルテリの研究やBCRA局長パッシー大佐の回想録を読破できたこと、また、最新のレジスタンス史研究であるオリヴィエ・ウィエヴィオルカ『フランス・レジスタンスの歴史1940-1944』(2013年、フランス語版、567頁)を精読して、フランス国内のレジスタンス諸組織についての基本情報や全体的な見取図を把握できたことなどが、「おおむね順調に進展している」と判断した理由である。これらの文献を通して全体を俯瞰する視座をクリアにしつつ、さらに一次史料も含めた文献収集に努めたい。 1940-1945年の時期に関する一次史料を、かなり収集することができたことも「おおむね順調に進展している」という判断に繋がった。入手した主な史料を列挙すると、自由フランスの官報(1941-1942、全8巻)や、イギリスのラジオ局BBCから毎夜放送した自由フランスの放送録『自由の声、こちらロンドン 1940-1944』(全5巻)、BCRAの副局長で北ルートのレジスタンス統一に寄与し、ゲシュタポに逮捕されて死去したピエール・ブロソレットの発言録や研究書、およびジャン・ムーラン逮捕後に臨時代理となったクロード・セルールの回想録などである。これらの文献を通して、BCRAの活動実態がよりリアルに解明できると思われる。 今後は、中央大学(『ルーヴル』)や立教大学(『ラ・リュミエール』)が所蔵する新聞、立命館大学が所蔵する自由フランス発行の雑誌『自由フランス――自由・平等・友愛』(1940-1947、全13巻)などを閲覧して、史料収集に努めることを考えているが、この作業が進むとさらに進捗度も増すであろう。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は国内レジスタンスを統一に向かわせたもう一つの回路である南ルートの解明に取り組む。とりわけ、ドゴール将軍の個人代表にして国民委員会代表のジャン・ムーランの行動に焦点をあてる。ムーラン研究は、側近ダニエル・コルディエの2つの浩瀚な必須文献から始めるべきだろう。ダニエル・コルディエ『ジャン・ムーラン――地下納骨所の共和国』(全2巻、2011年、フランス語版、1859頁)、および、コルディエ『ジャン・ムーラン――パンテオンの無名の人』(全3巻、1989年、フランス語版)の2点であるが、すでに入手済みであるので、ただちに研究に取り組むことができるだろう。また、ムーランとロンドンの自由フランス代表部、さらにはBCRAとの通信の分析や、弟ムーランの活動を何かと支えた姉ロールの回想録も重要文献であるので読破する必要があるだろう。これらの文献もすべて入手済みである。 3年目は北と南の2つのルートが合流して全国抵抗評議会(CNR)の設立にいたる経緯と、自由フランスと国内レジスタンス諸組織との齟齬や不和について解明しつつ、ドゴールのリーダーシップのもと、国内レジスタンス諸組織が自由フランスに包摂されていくプロセスを検討する。主要レジスタンス組織の機関紙(コンバ、リベラシオン、フラン=ティルール等)や政党の機関紙(ポピュレール、ユマニテ等)のかなりのものが、フランス国立図書館の電子部門サイトから閲覧できるようになっており、それを活用する。ただし、電報の類いはウェブにアップされていないので国立文書館に出張して閲覧する必要があるだろう。国内では、東京大学社会情報資料研究センター、および中央大学・立教大学・立命館大学での資料調査を予定しており、こうした史料収集にあたりつつ、3年目の後半には総合する作業に着手する予定である。
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