コロナ禍において予定していた研究作業に着手しきれなかったため研究期間を延長し、2022年度も引き続きヨーロッパ初期中世の威嚇の作法に関する研究を進めた。叙述史料を含む、調査が不十分だった史料群の検討を進め、その成果の一部は、初期中世における旅を論じた研究報告("Motivations for travels in the Carolingian age")にも活かされている。また「威嚇」を初期中世における政治的コミュニケーションの一側面と捉えるという本研究のアイディアを活かしつつ、新たに中世における「妥協」の考察を始め、研究報告も行なった("Verhandlungen und Kompromisse in der Karolingerzeit")。 研究機関全体を通じては、主として私文書における刑罰条項、カロリング朝君主の文書における刑罰条項、カロリング君主の命令書における「恩恵の剥奪」予告といった文書史料内にみられる威嚇行為に関する分析が順調に進み、いくつかの論文を公刊することができた。最終年度末に公刊された「ヨーロッパ初期中世の政治文化をめぐって:『威嚇』の様態を考える」は、専門家以外を対象とした講演録ではあるが、本研究全体を総括する内容になっていると言える。霊的威嚇に関しての議論、あるいは地中海世界という広いパースペクティブで「威嚇の文化」を論じるといった諸課題は残されているものの、これらには今後随時取り組んで行きたい。
|