研究課題/領域番号 |
17K03197
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
和泉 真澄 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (00329955)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日系カナダ移民 / 還流 / 歴史資料の保存 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、カナダ日本人移民の研究のうち、第二次世界大戦前に帰還した人々、および1946年にカナダ政府の国外追放政策の対象となり、日本にやってきた人々に関して、個人史を中心に聞き取り調査ならびに資料収集を行った。さらには、日系カナダ人の歴史的体験およびカナダにおけるさまざまな職業や娯楽、コミュニティの作り方などに関して、研究成果を社会に還元する活動の支援を行なった。 具体的には、日系カナダ人の通史の原稿を執筆しただけでなく、同志社大学グローバル・コミュニケーション学部科目のプロジェクトとして行われた「第二次大戦中に海外にいた日本人の戦争体験」に関する調査と展示が行われることになったため、そこで語り部として情報提供を行うカナダ生まれの二世帰国者を紹介し、展示の打ち合わせに立ち会い、展示会にも参加した。また、調査の結果、和歌山県からバンクーバーへ移住し、カメラマンとして活躍したイズミ・ジョン・タダオ氏が、戦後の国外追放で家族とともに来日しそのまま日本に定住したがわかった。イズミ一家の帰国後の生活についての聞き取りを、バンクーバー生まれの娘であるメグミ氏とエミコ氏から2018年5月および2019年2月に枚方市で行なった。また、昨年度に引き続き伊吹三樹雄氏のライフヒストリーの聞き取りを行なった。
海外活動としては、7月には、カリフォルニアの戦時隔離収容所であったツールレイク収容所跡地の巡礼および研究会に参加した。10月には、カナダのエドモントン市で日系カナダ人二世野球チーム「バンクーバー朝日」関連の研究発表を行った。2019年2月には、小説『ノー・ノー・ボーイ』の作者である二世のジョン・オカダに関する講演会、および強制収容に対する戦後補償運動の中で自らの体験を語り始める困難さとその克服の過程を描いた演劇『The Tales of Clamor』をロサンゼルスで鑑賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日系アメリカ人・カナダ人の強制移動・収容政策が両国の市民的自由にもたらした影響について考察した単著「The Rise and Fall of American Concentration Camp Law: Civil Liberties Debates from the Internment to McCarthyism, and the Radical 1960s」が、Temple University PressのAsian American History シリーズの一部として刊行準備が完了した。カナダから日本に自主的に、あるいは国外追放政策によって帰還した人々の戦後の生活に対する聞き取り調査は概ね順調に進んでいる。彦根市に新たな移民から帰還した家族がいることが発見された。この家族の場合、カナダに家族を出稼ぎに送っていたわけではないが、カナダの親戚から送られている資金や、カナダ産の木材の輸入によって、故郷の村で木材会社を立ち上げ、それが大きなビジネスチャンスとなったことがわかった。バンクーバー朝日野球チームに関する歴史資料の保存、および聞き取り調査の成果に関する論文が、人権関係の論文集に掲載され、それが今年度または来年度に、Temple University Pressから出版予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究調査を継続するために、カナダから帰還し日本に定住した人々への聞き取り調査として、伊吹氏、およびイズミ家の帰国した姉妹へのさらなる調査は必要であろう。また、イズミ・ジョン・タダオ氏の家族については、まだ一度も聞き取りをしていないメンバーがおり、またタダオ氏が長く勤務したノートルダム学院小学校でタダオ氏について記憶している人々のインタビューもしなければならない。今年度は、日系アメリカ人強制収容と市民的自由の関係を分析した単著の内容と、カナダにおける日系人の体験とを比較しつつ、カナダ政府による自国民の国外追放政策の意味について再考察を行う予定である。また日系カナダ人作家のジョイ・コガワ氏の4冊目の単著「Gently to Nagasaki」の日本での翻訳書の出版を目指すとともに、申請者の単著として日系カナダ人通史の出版にこぎつけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、当初、聞き取り調査の結果得られた録音記録の文字起こしや収集した資料のデジタル化なども作業として予定していたが、これらの作業を依頼できる人員を確保できず、謝礼をあまり支出することがなかった。また、中央大学の移民研究者との共同研究と年度が重なったため、そちらの経費から旅費を計上することになったことから、とりわけ当該科研の1年目の旅費の支出が予定より少なくなった。2018年度は、科研による海外調査を行なったため、旅費やほぼ予定通り執行したが、1年目の使用額が少なかったため、次年度の使用額に回すことになった。2019年度にも、海外調査、海外での学会発表を予定しているので、助成金を適切に使用できるものと考える。
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備考 |
論文、図書、口頭発表以外の研究成果として、日本移民学会年次大会でラウンドテーブル「国立国会図書館の活用-憲政資料室の日系移民関係資料について」の企画を行い、モデレータを務めた。南山大学。2018年6月24日。
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