研究課題/領域番号 |
17K03197
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
和泉 真澄 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (00329955)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日本人の越境生活史 / 日系カナダ人の歴史 / フィールドワーク / 研究対象者と研究者の交流 / 英語による刊行物の発行 / 地域史の保存 |
研究実績の概要 |
今年度は3回のフィールドワーク、研究成果の刊行、および研究対象当事者と研究者の交流を促進するための活動に従事した。 本年度出版した単著は、The Rise and Fall of America’s Concentration Camp Law: Civil Liberties Debates from the Internment to McCarthyism and the Radical 1960s (Temple University Press, 2019)、および『日系カナダ人の移動と運動-知られざる日本人の越境生活史』(小鳥遊書房、2020)である。また、日系二世の野球チーム「バンクーバー朝日」の関係者家族への日本における取材の成果を、アメリカの出版社から刊行されたアジア系アメリカ研究の論文集に掲載した。 フィールドワークとしては、9月27日に和歌山県御坊市美浜町三尾村のカナダミュージアム、カナダ資料館を見学し、トロントから訪問していた日系カナダ人二世夫妻の祖先の家と墓を一緒に訪問した。10月7日にはカナダのカルガリーでCalgary Japanese Community Associationとの交流会に参加、8日から11日までカナダ日系博物館主催のAlberta Sugar Beet Bus Tourに参加し、アルバータ州の日系人の生活に関して関係家族などの話を聞いた。11月17日には滋賀県彦根市松原町にて、ハミルトンから訪問中の日系カナダ人三世夫妻の祖先の家と墓を一緒に訪問した。 また、6月29日に日本移民学会年次大会でバンクーバー朝日に関する関係者から調査結果を公表するラウンドテーブルを企画・実行し、本学社会学部学生向けに日系人の歴史を書き残す意義について講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、本科研研究課題の最終年度であったが、2018年度と2019年度に学部の国際主任及びコース主任を任じられたために、研究に当初予定したほどの時間を割くことができなかった。そのため、2020年度まで研究期間の延長を行なった。 本年度は本研究課題に関する単著だけでなく、博士論文以来取り組んできた、アメリカ合衆国における国家安全保障と市民的自由の間のバランスに関する単著、The Rise and Fall of America’s Concentration Camp Law: Civil Liberties Debates from the Internment to McCarthyism and the Radical 1960s (Temple University Press, 2019)を英語で刊行した。こちらの刊行に関する作業に多くの時間を費やさざるを得なかった。 さらには、コロナウイルス蔓延の影響により、アメリカで参加を計画していたOrganization of American Historiansの年次大会が中止され、海外出張が延期になった。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果の発表という観点では、単著『日系カナダ人の移動と運動ー知られざる日本人の越境生活史』の刊行で一定の成果を出せたと考えている。同書は、移民研究やカナダ研究を専門としない一般読者にも読みやすいように平易な言葉で書くことを心がけたが、同時に日本語と英語の両方の分野で初めて日本人のカナダへの移動の全般を通史としてまとめた学術書でもあるので、今後、日系カナダ人の歴史が他の分野の研究者にも、一般国民にもさらに知られるように、講演やラウンドテーブルなどの活動機会を増やしていきたいと考える。また、高等学校の複数の英語教科書で「バンクーバー朝日」の話題が取り上げられていることから、教育現場との交流などを増やし、多文化共生教育の可能性について探りたいと考える。 本研究の最終年度においては、引き続き和歌山県や滋賀県でのフィールドワークを進め、カナダからの還流者の発見や移民送出地域における地域史の保存への努力により深く関わっていく計画である。さらに、本年度には、北米・日本・東南アジアに本拠を置くアジア系アメリカ研究者が協働して越境的にグローバルな対立や暴力について考える論集、Cathy J. Schlund-Vials, Guy Beauregard, Hsiu-chuan Lee, eds. The Subject(s) of Human Rights: Crises, Violations, and Asian American Critique (Temple University Press, 2019)の刊行に関わった。日系カナダ人研究の立場から、多様性研究や平和研究に介入する理論的な枠組みに関しても、国際共同研究を継続していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度・2019年度に学部の執行部の業務を任ぜられ、研究時間が思うように取れなかったことに加え、2020年4月2日に予定されていたOrganization of American Historiansの学会が延期になったため、研究発表のための海外出張が中止になり、予算を使い切ることができなかった。2020年度には、和歌山県の三尾での数回のフィールドワークを計画している他、コロナウイルスの影響が治れば、カナダで単著に関する講演などの海外出張を計画したい。また、カナダからの移民還流者の子孫の聞き取り調査を継続する予定である。
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