研究課題/領域番号 |
17K03205
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
荒木 志伸 山形大学, 学士課程基盤教育機構, 准教授 (10326754)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 立石寺 / 山寺 / 奥の院 / 石造文化財 / 庶民信仰 |
研究実績の概要 |
立石寺の石造文化財データについて、調査済である参道と山麓域に関して分析を進めた。まず、参道の磨崖供養碑に関して、特定の家名が刻まれたものを抽出した。その結果、ある一定の範囲の岩場空間を何世代かにわたり専有する事例を見出すことができた。特に弥陀洞地区では、市村家や大沼家による長期的建立が顕著な傾向にある。石塔の専有の仕方と異なる様相もみえてきた。引き続き今後の課題として分析していきたい。なお、銘文が解読できない磨崖供養碑の法量データと写真を照合し、近似値をもつ形式を抽出した上で現地で確認作業をおこなった。その結果、紀年銘は不明ながらも、同時期に建立された可能性が高い事例をいくつか発見することができた。 石塔に関しては、参道において近世後期に新庄地域の人々が集中して建立したエリアを見出すことができた。参道と山麓域の石塔形式を比較したところ、その比率が異なっていた。これらの情報は、山内における石造文化財の建立者の階層や寺との関係性を探る上で重要な手がかりといえる。なお、山内において磨崖供養碑・石塔いずれにも共通してみえる「大乗妙典供養塔」「一字一石供養塔」等の内容が確認できるものを洗い出し、その分布状況や内容の分析にも着手した。 本年度に予定していた奥の院地区の調査については、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、実施することができなかった。よって、参道・山麓域のデータとの比較検討作業も保留となっている。参道・山麓域と奥の院とでは、石造文化財データにおいて戒名等に異なる傾向がみえてきている。その背景を探るため、奥の院の歴史的意義に関わる文献収集や比較対象霊場の現地踏査を可能な範囲でおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
石造文化財の悉皆調査は十数名のアルバイト学生の動員が必要になるため、主に大学の長期休暇期間に実施してきた。当初、奥の院の調査を2020年度の8~9月に実施すべく準備を進めていた。しかし、新型コロナウイルス拡散防止のため延期せざるを得なくなった。その後、再度2021年3月へと計画を変更したが、山形県内での新型コロナウイルスが感染が急拡大し、3月には独自の緊急事態宣言が発令されるに至った。よって、2020年度の現地調査は見合わせることとなった。既に取得した石造文化財の立石寺のデータの分析は順調に進んでいる。しかし、研究に関わる文献収集や比較霊場の現地踏査等、研究の実践の機会が縮小し、研究全体としてはやや遅延していると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
奥の院地区での石造文化財調査は、新型コロナの感染状況をふまえながら大学の規定を十分に考慮しつつ検討する。立石寺側と緊密に相談を行いながら、調査の可否を慎重に検討したい。なお、仮に調査を実施する場合でも少人数に設定する等、実施体制の見直しも視野に入れたい。ただし、感染状況が改善しない場合は安全を最優先し、研究の重点を再考することも視野に入れる。 また、研究の集大成に向けて、これまで取得したデータのさらなる分析を進めていく。蓄積した石造文化財のデータの分析から、近世から現代における庶民信仰の推移や信仰圏の変化について解明を目指す。なお、研究の取りまとめに必要な文献収集について、新たに東京都内に在住する研究協力者等の支援を要請し、必要な論文等の複写作業を依頼することも検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染状況により、アルバイト学生を動員した悉皆調査が困難な状況となった。調査の受け入れ先である立石寺とも相談しながら、時期を判断し調査をしたいと考えている。また、引き続き難しい状況の場合は、調査方法や分析テーマを再検討することも視野にいれていきたい。
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