本科研の最終年度である2019年度は、新たな遺跡の三次元計測に取り組むとともに、これまでの研究成果を報告書としてまとめ、刊行することとした。まず、三次元計測については、総社市・倉敷市に所在する弥生時代後期の立坂弥生墳丘墓の三次元レーザー計測を実施した。研究当初は、岡山市都月坂墳墓・古墳群の計測を予定していた。一方で、イタリアを中心とする欧州の考古学・自然科学研究機関と岡山大学・島根県との国際共同プロジェクト「Be-Archaeo」において、立坂墳丘墓の熱ルミネッセンス法による年代測定が、2019年度に実施される状況であった。予算等も考慮の上、本科研で2017年度実施の楯築墳丘墓との比較の重要性および国際的共同研究への今後の発展という観点から、2019年度は立坂弥生墳丘墓の計測を実施することとした。三次元計測に先立ち、レーザーの障害となる下草の伐採を経て、測量業者により、11月初めに計測を完了し、その後基礎的データ処理を行った。 こうした三次元計測と並行して継続してきた、古墳時代前期の前方後方墳(岡山市津倉古墳)の調査研究について、個別遺物や墳丘のデータの精査と考察ならびに全体総括を行い、最終報告書としてまとめる作業を本年度実施した。結果、本科研で取り組んだ3か年の弥生墳丘墓・初期古墳の三次元計測(楯築、宮山、立坂)および前期古墳(津倉古墳)の調査研究成果をまとめた書物として、『津倉古墳』という報告書を2019年度末に刊行するに至った。この報告書の中で、本科研で作成した三次元計測に基づく詳細コンター図(10㎝または5㎝)を提示したうえで、計測精度にかかわる課題や、そのデジタルアーカイブとしての有効性等に関し論じた。さらに、調査研究に基づく岡山県南部における古墳論・地域社会論を提示することが可能となった。
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