研究課題/領域番号 |
17K03209
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
村田 裕一 山口大学, 人文学部, 准教授 (70263746)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 弥生石器 / 弥生鉄器 / 石器鉄器組成 / 石器鉄器の地域性 / 地域間関係 / 鉄器化 / 山陰地域 |
研究実績の概要 |
まず石器と鉄器の遺物データベースについて,点検・不足部分と要補足部分の抽出および補充をおこない,小規模ではあるが全体的な精度を高めた。 また,実物観察調査の具体的なまとめとして,島根県西川津遺跡の弥生石器について論文発表したのが大きな成果である。西川津遺跡の弥生石器は,従来は山陰地域における大陸系磨製石器の典型として位置付けられてきた。しかし今回採り上げたのは,大型粗製剥片刃器・小型粗製剥片刃器・不定形刃器・石庖丁様石器など4器種の非定型的な剥片石器類で,従来はあまり注目されることのなかった石器である。ところがそれらは,この地域の石器文化の特色を濃密に映し出すものであることが判明した。 はじめに,それら4器種の非定型的な剥片石器類について定義し,大きさと石材から特徴を整理した。そして,石器組成上の役割の違い,相互に補完できる点について指摘した。つぎに,従来,管玉製作のための技術として認識されてきた「施溝分割」技術について,一般の石器製作に通有することを解明し,施溝分離技術という技術体系を設定した。これをもとに,西川津遺跡では,施溝分離技術を軸とする石器製作上の構造=施溝分離石器製作技術体系が存在する可能性を示した。最後に,黒曜石製の剥片・チップ・RF・UFに注目した。そして,これらが大量出土している背景として,隠岐という優良な黒曜石産地を擁した西川津遺跡ならではの石器文化を見出した。それは,黒曜石製剥片を,そのまま刃器として利用することを前提に大量生産・大量消費することで,形態的な適材適所の剥片利用をおこなうような石器使用様態である。 ところで,4器種の非定型的な剥片石器類は,関門地域から北陸地方にかけての山陰地域に広く分布している。ただし,細分形態や組み合わせは小地域ごとに異なる。今後は,これらの非定型的な剥片石器類に注目した地域の設定と地域的特徴の抽出が課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年度に予定していた鳥取県と福岡県の実物観察調査が遂行できず,期間延長をおこなって取り組んだのが2020年度の研究であったが,2020年度も予定した調査を実施することができなかった。このため,このような評価とした。 新型コロナウィルス感染症の感染拡大の動向が予測しにくく,調査を実施するタイミングを見極めにくかったことが主要因であるが,それは2021年度も状況は変わらない。ただし2021年度は,ワクチン接種の進行状況次第で,状況が好転することが見込まれる。ワクチン接種が広く進行すると予測されている秋以降の年度の後半期に,調査の実施を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
取り組みの基本方針は2020年度と同様で,実物観察調査の実施と遺物データベースの充実である。 最大の懸案は,本研究課題の本来の最終年度である2019年度に計画したものの,その年にも翌2020年度にも実施できなかった実物観察調査の実施である。しかし,新型コロナウィルスの動向は現時点で全く予想が付かず,むしろ感染拡大傾向にあり,調査の日程を組み立てることができない。大変苦慮するところである。現状では,ワクチン接種の進行に活路を見出す以外にない。 データベースの作業は,2020年度同様に,山陰地域全体についておこなっていく。特に2021年度は鳥取県・兵庫県・京都府の作業を発展させる。これにより,より詳細な地域性の解明を目指す。集落間の関係については,地域性を詳細に把握することで,小地域間における地域間関係を整理する。2020年度までと同様の作業方針であるが,これにより,集落間や小地域間の関係を軸に,隣接する北部九州地域および瀬戸内地域,さらには遠隔地の近畿地方や北陸地方をも含めた広域での地域間関係の分析につなげてゆく。あわせて,このような地域間関係をベースとした鉄器化の進行過程について明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末に,鳥取県と福岡県への実物観察調査を計画していた。ところが,資料収蔵機関への調査依頼も終わり,資料収蔵機関で調査資料の準備も完了していただき,いよいよ調査を実施しようという段階で,新型コロナウィルス感染症の拡大防止のための措置で,調査を延期せざるを得なくなった。この調査は,研究をまとめていく上での重要な確認調査であり,実施することなしに研究を終了することはできないため,この調査に必要な経費を2020年度使用額として繰り越すことになった。 しかし,2020年度は,コロナ感染症の第2波,第3波が訪れるような状況下で,教育・研究に例年とは異なる様々な対処が迫られる中で,結局,調査の時期を決定できずに年度末を迎えた。このため,この調査にかかる経費を次年度使用額として,調査期間の再延長をおこなった。2021年度後半期は,ワクチン接種の進行により状況が好転することが期待できるので,そのような状況を待って必要な調査を実施する予定である。
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