研究課題/領域番号 |
17K03220
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研究機関 | 大手前大学 |
研究代表者 |
白井 章代 (今福章代) 大手前大学, メディア・芸術学部, 教授 (40235726)
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研究分担者 |
森下 章司 大手前大学, 総合文化学部, 教授 (00210162)
東村 純子 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(総合グローバル), 講師 (10465601)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 紫根色素抽出 / 紫根栽培 / 椿灰汁媒染 / 染色工房遺跡出土品 / 紫根染 / 深紫 |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き、①日本産ムラサキ原産地の調査、②日本原産ムラサキの栽培実験、③それらを用いた染色実験、④実験を踏まえた文献の検討、⑤民俗例の調査を進めた。 ①9月に三重県伊賀市山中に残る数少ないムラサキの自生地を実地調査した。昨年度よりも自生のムラサキが増えていることを確認した。 ②研究協力者の前川真司・黒川薫氏とともに滋賀県君が畑町と甲賀市土山町において、日本産ムラサキの栽培実験を継続している。前川氏の畑では獣害や天候不順などにより、当初予定の収穫には至らなかった。そのため黒川氏提供のムラサキを本年度の実験に使用することとなった。 ③2018年度の実験では、以下のように材料や工程の各条件をさまざまに変えた上で染色結果の違いを確認した。A:媒染剤に用いる植物の種類(椿とひさかき)の灰汁の性質のちがい(phの差、アルミ含有確認、灰の保存状況の差によるアルミ量の変質)、B:ムラサキの種類の違い(硬紫根と軟紫根との比較実験)、C:紫根の形状(粒、粉等)、色素を抽出する際の粉砕方法、温度による差、D:ムララサキの各部位(直径)による色素量の違い、E:色素抽出後の保存期間の差、F:タンニンのブロッキングを防ぐ抽出実験、G:染色時の染色浴の温度と染色時間の違い、H:媒染回数の差など、各種の条件や手法の違いがいずれも発色の差に結びつくことを確認できた。④以上の実験をふまえて、あらためて延喜式に述べられている素材の意味について検討し、酢の用途について検証を行った。 ⑤また、南部藩が行ったとされる南部紫根染めの継承者であった秋田県鹿角市栗山文一郎、栗山文次郎、岩手県岩泉市八重樫家、京都市木内達吉、東京市加賀屋小沢清五郎などの紫根染めの染色方法を参考にしながらも、紫根の粒状化もしくは粉砕という形状の違いという新たな視点による抽出や染色工程も考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(進んだ点) 紫根染に関して発色に影響する要素の抽出と、それぞれ条件を変えて実験して、その違いを確かめるという作業の繰り返しによる実験データについては大幅な蓄積を進めることができた。実験を進める中で、紫根古代の技法において特に重要な技法や工夫なども解明できた。紫根から色素を取り出す具体的な技法など、日本原産の紫根を用いて初めて明らかにすることができたものである。また『延喜式』の記載通りであれば膨大な分量が必要となる、媒染剤の木灰の生産方法など実験を通して浮かび上がってきた課題も多い。 実験結果については代表者と、考古学専攻の分担者との間で絶えず意見交換をおこない、考古学的な面から見た道具の形状や生産のあり方などについても議論を進めることができた。 (研究成果のまとめに向けて) 以上の膨大な実験データをまとめ、論文とレポートの形で報告する準備を進めている。 (課題) 日本原産の紫根の栽培実験に関しては難渋しており、水害や獣外などにより、予定していた収穫量を確保できていない。他の研究協力者の好意によって当面の実験分だけは得ているものの、大量の紫根を用いた本格的な染色実験のためにも量の確保が課題である。
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今後の研究の推進方策 |
①原産種ムラサキの栽培、②紫根の抽出実験、③椿灰の媒染実験、④条件設定を変えた染色実験、⑤民俗例の調査、⑥出土遺物の検討、⑦以上を総合した研究のまとめを進める。 ①については反物を一疋を深紫に染色する実験を行うために、紫根の収穫18㎏をめざす。②~④は、各種実験に基づき、染色工程で仕上がりの色に影響する全ての諸条件をまとめてゆく。特に前年度の検討課題として紫根の形状の違いによる抽出の比較を再度確認する。⑤については南部藩が行ったとされる南部紫根染めの継承者であった秋田県鹿角市栗山文一郎、栗山文次郎、岩手県岩泉市八重樫家、京都市木内達吉、東京市加賀屋小沢清五郎などの紫根染めの染色方法を参考にしながら、新たな発想も含め、多様な染色工程・条件で染色実験を試み、染色サンプルを完成させる。⑥研究分担者がまとめている染色に関係する考古資料を整理・評価を行う。 ⑦として、上記の結果を検討・議論する研究会を実施し、論文およびレポートを刊行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の染色の再現実験において、当初の計画よりも大幅に作業が増えることが判明した。もっとも重要な最終的な実験であるため、実験補助者の謝金について本年度分を削減し、次年度の実験に注力することとした。
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