インドシナ半島では、ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーにおいて、焼き締め陶器製作の民族誌約20ヶ所を数えることができる。ベトナム北部のソンラー省ムオンチャイン、ラオス北部のサムヌア県バーン・ルー、ルアンパバーン県バーン・チャン、ルアンナムター県バーン・ヨーでは、焼成部から燃焼部にかけての平面形が長楕円形状を呈し、窯体の全長が長大な窖窯(以下「長楕円形状窖窯」と略記)が見られる(徳澤ほか2016)。一方、ラオス中部のタケーク県バーン・ノンボック、中南部のサバナケット県バーン・ノンラムチャン、バーン・ナタイ、カンボジア東北部のラッタナキリ州パカラ等で焼成部から燃焼部にかけての平面形が三角形状を呈し、三角形の底辺にあたる焼成部の火前側とそこに接続する焼成部に最大幅をもつ窖窯(以下「三角形状窖窯」と略記)が見られる(徳澤ほか2017)。また、長楕円形状窖窯のうち、ベトナム北部からラオス北部にかけての地域では、焼成部と燃焼部の境が有段の長楕円形状窯が分布することに対して、ミャンマー東部シャン州では、無段の長楕円形状窯が見られる。そして、シャン州東部からチェンマイ県にかけての両者の境界には、昇炎構造をもつ窯が点在するという窖窯の地域差を確認することができた(徳澤ほか2019)。さらに、タイ東北部のうち、ウボンラチャタニからナコンパノムにかけてのメコン川西岸地域では、かつて窖窯が用いられていたものの、ほとんどが造り替えの容易な煉瓦積みの地上式窯に切り替わってしまった。ただし、本支流において、複数の窖窯の残骸やさまざまなタイプやサイズの地上式窯が見られるとおり(改良を含む)、メコン川東岸と比較して、さまざまな技術が先取されるとともに、大型化しており、経済発展に応じた生産拡大という背景に応じて、焼き締め陶器製作が段階的に発展を遂げてきた様子も窺うことができる(徳澤ほか2018)。
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