研究課題/領域番号 |
17K03224
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研究機関 | 作陽音楽短期大学 |
研究代表者 |
澤田 秀実 作陽音楽短期大学, 音楽学科, 准教授(移行) (40264577)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国産銅鉛原材料 / 産出地同定 / 使用開始年代 / 鉛同位体比分析 / 蛍光X線分析 / 耳環 / 環頭大刀 / 合金の使い分け |
研究実績の概要 |
2019年度の研究は、昨年度までの鉛同位体比分析で国産銅鉛原材料と捉え、比較的多くの遺物の帰属が認められた「生野領域」について国産原材料とし得るか検証するために、朝鮮半島系遺物を含む群馬県玉村町小泉長塚1号墳、小泉大塚越3号墳から出土した遺物の考古学的調査、理化学的分析をおこなった。 この調査によって半島系遺物のなかに「生野領域」に含まれるものが判明し、朝鮮半島南部の金属鉱山における方鉛鉱の鉛同位体比分析成果(2019年1月公表)との対応関係を追究した。また昨年度までに調査した分析結果の再検討をおこない、岡山県倉敷市箭田大塚古墳出土環頭大刀や広島県福山市二子塚古墳出土鍔などが新羅領域に所在する鉱山の分析値に近いことが判明した。さらに、これらを検証するために6世紀後半代の新羅系金銅製品と考えられた福岡県古賀町船原古墳と広島県福山市二塚古墳から出土した鳳凰文心葉形杏葉の予備的調査をおこない、次年度の理化学的分析に備えた。 そのほか蛍光X線分析による金属成分について整理し、耳環、環頭大刀とも純銅、銅・鉛合金、銅・鉛・スズ合金、銅・スズ合金で構成されることが明らかとなった。このことから6世紀後半代の銅製品製作にもちいられた原材料は個別の銅、鉛、スズインゴットであった可能性が高く、青銅品のスクラップの利用をある程度排除して考えて良いとの結論に至った。またこのような合金の使い分けについても検討しているが、今のところ耳環に純銅製品が多く、鍛造製品にスズを用いない傾向が認められた。また金鍍金についても多くが水銀を用いたアマルガム法であることが明らかとなり、その技法が少なくともTK43型式期(6世紀第三四半期)まで遡ることを確認した。 また、箭田大塚古墳出土の環頭大刀2点については、倉敷市指定文化財に答申する際に本研究の成果を開示し、6世紀後半代の倭製金工製品の技術力についても追究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は「生野領域」について国産原材料とし得るか検証を進め、新たに「生野領域=新羅領域」といった仮説を得たが、一方で予定していた国産銅鉛原材料産出地の候補に挙げた「後野領域」(出雲半島の鉱山)を検証すべく、島根県鷺鉱山で採集した銅鉱石や6世紀後半代の倭製資料、とりわけ双龍環頭大刀を対象とした鉛同位体比分析が連携研究者の都合(分析機器の不調など)でおこなうことができず、国産原材料の追究に課題を残した。 また研究代表者の白内障発症と加療や新型コロナウィルス感染症対策によって、予定していた銅製品の生産と流通を念頭においた資料調査が十分におこなえず、課題を残した。前年度までの成果報告も十分になし得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、6世紀後半代の銅製品の考古学的調査、理化学的分析(鉛同位体比分析、蛍光X線分析)をおこない国産原材料の使用開始年代を追究する。 まずは昨年度に実施できなかった島根県鷺鉱山銅鉱石や双龍環頭大刀を中心とした6世紀後半代の倭製資料の鉛同位体比分析の実施を優先するが、併行して補足調査として昨年度に判明した「生野領域=新羅領域」を確固たるものにするために国内に散在する6世紀代の新羅関連遺物の調査(理化学的分析を含む)を進めてゆく。 また昨年度までに得られた研究成果を学会、研究会にて発表し、周辺分野の研究者の意見を取り入れて、鍛錬し、研究報告書の作成に備える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に予定していた鉛同位体比分析および試料採取が連携研究者の都合(分析機器の不調)、研究代表者の白内障発症と加療などでおこなうことができず、旅費に次年度使用金が生じた。また研究代表者の白内障発症と加療や新型コロナウィルス感染症対策によって、予定していた銅製品の生産と流通を念頭においた資料調査が十分におこなえず、旅費および資料整理のための人件費に次年度使用金が生じた。 最終年度となる2020年度は、連携研究者による鉛同位体比分析および試料採取ならびに銅製品の生産と流通を念頭においた資料調査を優先しておこない、成果報告に備える。
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