2021年度も、コロナウイルス感染症の拡大によって調査研究活動が著しく制限されたが、鉛同位体比分析用の試料採取(計15点)を研究代表者がおこなうことで、遅延の生じている鉛同位体比分析の再開を目指した。試料採取は、特にデータの不足しているTK209型式期(6世紀末葉)の資料を中心におこない、あわせて7世紀後半代の寺院関係資料(高知県瓜尻遺跡採集水煙)も調査した。また、これらに加え、一部資料での重量計量などの補足調査をおこない、所期の目標であった6世紀後半代から7世紀代の資料調査、データ収集作業を終えた。 2021年度は、これらの調査活動と併行して、2017年度からの理化学的調査による分析値の解析と考古学的調査での知見との整合性の把握に努め、2020度までに得られた蛍光X線分析による調査研究成果のうち、環頭大刀柄頭の成果をアジア鋳造技術史学会(2021.8.22於:富山大学高岡キャンパス)にて長柄毅一と共同発表(澤田・長柄2021)し、環頭大刀の製作技法と合金成分に相関性があることを示した。また、耳環の調査研究成果を研究論文集に投稿(澤田2022)し、耳環の型式変化とともに使用原材料の成分から生産体制を示し、副葬意義や往時の国家秩序に言及した。 さらに、これらの研究成果をベースに、連携研究者の協力を得て年度末に報告書を刊行し、所期の研究目的であった日本列島での銅鉛原材料産出地として出雲市後野周辺、美祢市桜郷・長登周辺の可能性を示し、両産地に同定された遺物の帰属時期から、その確実な開始時期をTK209型式期(6世紀末葉)と結論づけ、あわせて鉱山開発の背景に新羅系渡来人の関与を想定した。なお、本研究では6世紀後半代の銅鉛原材料輸入先として新たに朝鮮半島南部新羅領域が明確となったが、往時の外交関係についても新知見が得られた。
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