研究課題/領域番号 |
17K03226
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研究機関 | 国立歴史民俗博物館 |
研究代表者 |
松木 武彦 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (50238995)
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研究分担者 |
橋本 達也 鹿児島大学, 学内共同利用施設等, 教授 (20274269)
中尾 央 南山大学, 人文学部人類文化学科, 准教授 (20720824)
田村 光平 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60725274)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 古墳時代 / 武器 / 鉄鏃 / 柳葉形鉄鏃 / 編年 / 地域色 / 楕円フーリエ解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、古墳時代の武器のうち、時間・空間とももっとも普遍的に多くの個体数が存在し、なおかつ形態の時間的変化・空間的変異が顕著に認められる点で、生物の示準化石・示相化石にもたとえられる「鉄鏃」について、データを集成し、平面形を数理的に把握するために、その輪郭に対して「楕円フーリエ解析」を行う。さらに、解析された個々のデータ間の類似度を、「主成分分析」により、グラフ上の距離と方向として表示する。 平成29年度は、これらの鉄鏃のうち主として5世紀前半に製作された「柳葉形鉄鏃」を対象として、まず6月から8月にかけて、近畿地方の代表例である大阪府豊中市大塚古墳および大阪府堺市七観古墳、ならびに関東地方の代表例である東京都世田谷区野毛大塚古墳の資料について、それぞれの調査報告書の実測図をもとにデータを、研究代表者の松木が整備した。これらのデータを研究分担者の田村が楕円フーリエ解析を用いて分析したところ、大塚古墳の個体群がグラフの距離・方向の上で独特の分布を示す一方で、七観古墳と野毛大塚古墳のデータには分布域が重なるものが多いなどの結果を可視化できた。 9月~12月にかけて、松木・田村および研究分担者の中尾・橋本ならびに研究協力者の高田・野下で検討をした結果、大塚古墳のデータの独特な分布は、それらがデータソースをなす3つの古墳のうちでも時間的にやや古く位置づけられることと関係するのではないかとの結論に達した。このことは以前より感覚的に指摘されていたことであるが、今回の作業で数理的な裏付けのもと可視化できた。本年度の作業では上記の時間的変化の分析と解釈に力点が置かれたが、これが明らかになったことにより、以後は空間的な変異を本格的な検討の対象にするための作業前提を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、鉄鏃の時間的変化(編年)と空間的変異(地域性)の数理的可視化をもとにした新しい意義付けのために、楕円フーリエ解析による分析が有効であることが明確になった点は重要な成果である。ただし、引き続いてデータを網羅的に解析する作業の進行がやや遅れている。中部~関東では東京都野毛大塚古墳ほか約10 例、近畿では大阪府七観古墳・京都府恵解山古墳ほか約20 例、中国・四国・九州では福岡県月岡古墳ほか約15 例、その他(北陸・東北など)が約10 例ほどで、報告書の図面の集成はほぼ完了したが、それを解析にかけるための準備作業(松木が担当)が遅滞した。 遅滞の理由の一つは、松木と田村の意見交換の中で、どの程度まで完形に近い状態で遺存した資料(考古資料には欠損品が多い)をデータとして解析に取り込むかという問題が生じ、柳葉形鉄鏃の鏃身下半部の棘部よりも先端寄りが完存した個体を対象とすべきであるという認識が導かれ、それに合致した資料群の整備に予想以上の時間がかかったためである。
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今後の研究の推進方策 |
柳葉形鉄鏃を主対象として、本研究の最終的なテーマである武器の「デザイン」の創出・維持・共有・変容といった現象を具体的に把握するためには、「デザイン」と対極をなしつつ武器の形態を構成する「実用的機能」の評価が必要となる。すなわち、形態から実用的機能を捨象したものがデザインとして残るということもできる。この関係を明らかにするために、柳葉形鉄鏃に先立って3~4世紀に流行し、非実用的な宝器的武器といわれる柳葉形銅鏃を同じ手法で分析して比較することが有効なのではないかという提言が、研究組織の中から出てきた。そのため、計画を拡充する形で、平成30年度は「デザイン」の比重が高いといわれる柳葉形銅鏃のデータを収集して同じ手法で解析し、「実用的機能」の比重が高いとされる柳葉形銅鏃のそれと比較することによって両者の違いを可視化し、「デザイン」の変化・変異と「実用的機能」の変化・変異とを相互対置的に浮き彫りにする作業段階を設ける。こうしたことを経て、平成31年度にかけて後期の鉄鏃や朝鮮半島の諸例も解析に含め、古墳時代武器の形態の変化と変異について、鉄鏃を対象にその全体像を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
大部分のデータの集積は進んだが、それを解析に投入する際の認識の明確化とそれに沿った準備作業が遅れた。その分の作業を平成30年度の前半に集中的に進める。
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