研究課題/領域番号 |
17K03228
|
研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
安倍 雅史 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 研究員 (50583308)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 新石器化 / イラン / ザグロス / ホルマンガン / 再細石器化 / 8.2kaイベント |
研究実績の概要 |
ホルマンガン遺跡は、イラン南西部ファールス地方にある土器新石器時代前半の初期農耕村落址である。2016年に、テヘラン大学のモルテザ・ハニプール氏によって発掘調査が行われている。この遺跡は、筆者たちが行った放射性炭素年代測定法によって、前6100年~前6000年に年代付けられている。 今年度は、研究代表者の安倍がホルマンガン遺跡出土の打製石器の分析を行い、新井才二氏が動物骨の分析を実施した。 ファールス地方では、前7000年には農耕・牧畜が西方より導入され、ヒツジ・ヤギ飼育が主要な生業になっていたことが知られている。しかし、前6100年~前6000年のホルマンガン遺跡の動物骨を分析した結果、野生獣であるオナガーとガゼルが動物骨の大半を占めていることが判明した。これは、8.2kaイベントと呼ばれる小氷期の影響であると推測された。前6200年前後、気候が急速に乾燥・寒冷化したため、生業のなかで野生獣狩猟の占める重要性が高まったと推定された。 この変化は打製石器にも如実に現れていた。ファールス地方の新石器時代には、伝統的に細石刃と石刃が押圧剥離によって生産され、細石刃は狩猟具と、石刃は農耕具と結びついていた。前7000年ごろに、農耕・牧畜がファールス地方に導入されると、細石刃が徐々に生産されなくなり、石刃の割合が増加していく。しかし、ホルマンガン遺跡では、極めて細石刃の割合が高く「再細石器化」とも呼べる現象が起きていた。これは、明らかに、8.2kaイベントの影響を受け、野生獣狩猟の重要性が高まったことと関連している。 また、今年度は、ホルマンガン遺跡出土の打製石器資料と動物遺存体の分析と合わせ、イラン・クルディスタンにあるルワル遺跡の放射性炭素年代測定も実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、当初予定していたザグロス地域内の初期農耕村落址の発掘調査を実施することはかなわなかった。 そのかわりに、テヘラン大学が実施したザグロス地域の初期農耕村落址ホルマンガン遺跡出土資料の分析に協力した。この結果、8.2kaイベントに対し、初期農耕民が、野生獣狩猟の役割を再び高め、石器技術に関しても再石器化を進めるという非常に興味深い現象を見い出すことができた。 発掘調査に関しては、現在、準備を進み、2018年度の5月、6月にイラン国立博物館のホセイン・アジジ・ハラナギ氏と共同で、イランの南ホラサーン州にある初期農耕村落址カレ・クブ遺跡の発掘調査を実施する予定である。 そのため、現在、研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度には、イラン国立博物館のホセイン・アジジ・ハラナギ氏と共同で、イランの南ホラサーン州にある初期農耕村落址カレ・クブ遺跡の発掘調査を実施する予定である。 発掘調査は5月下旬から6月下旬にかけて、約4週間に渡り、実施する予定である。カレ・クブ遺跡は、農耕・牧畜の起源地の一つとされるザグロス山脈ではなく、イラン高原東部に位置している。 しかし、南ホラサーン州は考古学調査の空白地域であり、かつ近年の遺伝子研究は、ザグロス山脈から南アジア、中央アジアといった東方地域への農耕・牧畜の伝播を支持しているため、発掘調査を実施すれば、ザグロスから東方地域への農耕・牧畜の拡散に関する興味深いデータを得ることができると思われる。 また、12月には再度テヘランに渡航し、カレ・クブ遺跡出土の打製石器資料や動物遺存体を分析する予定である。
|