研究課題/領域番号 |
17K03228
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
安倍 雅史 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 研究員 (50583308)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 農耕・牧畜の起源 / ザグロス / 南ホラーサーン州 / カレ・クブ遺跡 / ウルク / 国家形成 / 社会の複雑化 |
研究実績の概要 |
近年、レヴァント地域と並び、ザグロス山脈が地中海式農耕の起源地の一つとして注目を集めている。このザグロス山脈から東方への農耕拡散のプロセスを研究するため、今年度、新たにイラン東部南ホラーサーン州をフィールドに考古学調査を開始した。 そして、イラン東部最古の農耕村落を見つけることを目的に、南ホラーサーン州アイアスク村近郊にあるカレ・クブ遺跡で発掘調査を行った。この遺跡においては、発掘前から新石器時代の古い段階に特徴的な石器群を表採することができたため、カレ・クブ遺跡が古い新石器時代の層を持つことが予測されたからである。 遺跡の中央に二つのトレンチを設け、地山まで発掘を実施した。その結果、両トレンチとも、地山直上の層から新石器時代と銅石器時代の移行期に相当するチャシュメ・アリ文化の土器片が出土し、残念ながらカレ・クブ遺跡では、農耕拡散のプロセスを研究できるような古い新石器時代の層を見つけることはできなかった。 しかし、それに代わる発見もあった。両トレンチとも、表土下1m~1.5mにある礫層から、1000km以上離れた南メソポタミアのウルク文化に特徴的な土器片を数多く発見することができた。南メソポタミアでは、ウルク期(前4000年~前3100年)に世界最古の文明メソポタミア文明が誕生した。しかし、南メソポタミアの初期都市国家群が鉱物資源や貴石などを求めて競って周辺地域に進出した結果、ウルク期後半には、南メソポタミアを超え、南東アナトリアやシリア、北メソポタミア、イラン高原にもウルク文化の物質文化が広がっていったことが知られている。 いままでウルク文化の物質文化を確認できた最北東の例は、テヘラン周辺であった。しかし、今回の調査によって、カレ・クブ遺跡こそがウルク文化の物質文化が確認された最北東の例となり、ウルク文化の広がりは、さらに東へ600kmも広がることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の調査では、イラン東部最古の農耕村落を見つけるという目的で、イラン南ホラーサーン州のカレ・クブ遺跡の発掘調査を実施した。しかし、カレ・クブ遺跡では、古い新石器時代の層を見つけることができず、その意味では、今回の調査は空振りに終わった。 しかし、その代わり、1000km以上離れた南メソポタミアのウルク文化の層を上層で確認することができた。カレ・クブ遺跡は、現在、ウルク文化の物質文化が見つかった最果ての遺跡である。現在、カレ・クブ遺跡からウルク文化の物質文化が見つかったことは、イラン国内のみならず国際的にも注目されている。 カレ・クブ遺跡は、イランそして西アジアの国家形成、文明形成を考えるうえでは、きわめて重要な遺跡であり、この意味では、今回の調査は成功に終わったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も、カレ・クブ遺跡で発掘調査を継続する予定である。カレ・クブ遺跡では、西アジア地域における国家形成を考えるうえで非常に重要な層、ウルク文化の層が発見されているため、来年度は、この層を中心に発掘する予定である。 現在、狭いトレンチでのみウルク文化の層が見つかっているにすぎないため、来年度は、面的な発掘を行い、より広範囲のウルク文化の層の検出を目指す。 また、並行して、カレ・クブ遺跡周辺の考古踏査を実施する予定である。本来の目的であるザグロスからの東方への農耕拡散を研究できるような古い新石器時代の層を持つ遺跡を再度、探し求める予定である。
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