ベトナム北中部のゲティン地域には、17世紀に日本の朱印船がたびたび寄港し交易活動を行っていた。本研究は、当該地域の考古学調査や関連史資料の総合的調査研究により、17世紀の日本人商人の活動を考察する。本年度の現地調査は、考古学発掘調査及び水中考古学調査を実施した。 発掘調査は、17世紀にゲティン地域の名家・阮家に嫁いだ日本人女性の居住想定地で実施した。遺物は16~18世紀の中国やベトナムの陶磁器がほとんどで、当該地域が16世紀以降に居住域となったことがわかる。また、出土した陶磁器の様相はゲティン地域の港、ホイトン遺跡出土品と共通性があり、これらの貿易品が内陸部の居住域にまでもたらされ、流通、使用されていたことが確認できた。なお、17世紀の日本人と関連する遺構、遺物は発見できなかった。 水中考古学調査では、1609年にラム川河口部で沈没したと記録が残る角倉の朱印船の調査を実施した。サイドスキャンソナーを用いて河口部から沿岸部にかけての海中を広く探査したが、船体の存在は確認できなかった。この探査結果から、河口部には砂が厚く堆積していることがわかり、今後の調査の進め方について現地研究者らと協議した。 このほか、京都の角倉関連史資料の収集や、英国や中国の研究者らと今後の調査研究に関する協議をおこなった。 研究成果の公表では、これまでの考古学調査の成果を日本、ベトナム両国の研究者間で共有するための国際セミナーをハティン省にて開催し、その様子はベトナムのマスコミを通じて広く配信された。このほか、学術論文を2本、国内外における発表を3回行い、研究成果の発信につとめた。 本研究は、朱印船へ商品を供給していた東南アジア大陸部東西回廊による交易様相を解明するもので、ベトナム史、日本近世史、日越交流史などの各研究に新展開をもたらすとともに、クローバル・ヒストリー研究にも貢献する意義を有する。
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