2020年度は、前年度までに獲得した知見をもとに製作した原型および鋳型を用いて、泉屋博古館所蔵編鐘第4器について総計6点の復元鋳造を実施した。これらについて、鋳造後の熱処理によって、音高・音響にどのような変化がみられるのかを検証した。 熱処理については、先行研究を参考にしながら、4点について電気炉を用いて処理した(器全体が一様に熱を受ける)。さらに編鐘が製作された春秋戦国時代の熱処理に近い状況を再現するため、2点について燃焼する木炭のなかに器を埋め込んで処理を試みた(器本体のみ加熱、鈕は空気中に露出。推測ではあるが、この方法の方が当時の熱処理方法に近いと考えた)。さらにそれぞれ徐冷と急冷を実施した。その結果、後者の燃焼木炭埋め込みによる熱処理では、2点のうち1点について処理中にクラックが入り処理に失敗した。 音高と音響の検証は、実際に対象資料を紐でつるして叩き、およそ10㎝離したマイクで音声を収録し、その音声データをNHCSoftwareのWAVEPadにより、周波数分析と時間周波数分析をおこなった。その結果、電気炉による熱処理と木炭埋め込みによる処理とでは、比較資料数が極めて少なかったこともあり、有意な差異を認めることができなかった。なお編鐘は遂部と鼓部とで音高が変化するように設計されている。遂部に比べ鼓部が音階ほど高くなるが、今回の周波数測定では、ほぼすべての対象資料で、叩いてから3秒程度は、650Hz前後(E5付近)と870Hz前後(A5付近)の2音が併存する、すなわち遂音(650Hz前後)と鼓音(870Hz前後)が混在する状況が確認できた。混在の状況は叩く位置により変化することもわかった。また熱処理をかけた方が混在する時間が短く、一つの音階に収斂した残響が続く可能性が高いこともわかった。
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