本研究では、地球科学の方法と概念を考古学研究に応用するジオアーケオロジーの手法を用いて、河内平野南部の南北7km、東西8kmの範囲内の60の遺跡を対象に、縄文時代晩期から奈良時代までの古地形を10時期に分けて復元し、この間の地形発達と人間活動の関係史を考察した。期間中に作成した基礎データとなる柱状図は総数2432点に及ぶ。 まず、対象地域の地形の特徴を、現地表面で判読できる後背低地の傾斜区分に基づき扇状地と規定し、こうした傾斜のある地形面の河川形態は網状流路であることを示した。この点に留意しつつ、各時期の流路を主流路と排水流路とに区分し、大和川主流路の変遷、および河川活動に伴う地形変化を発掘調査の地層データから復元した。そして、各時期の居住域・生産域・墓域の分布・範囲を復元し、地形条件に適応した土地利用や集落動態、生産基盤を同じくする地域集団・社会の拡大過程などを長期的視点で位置付けた。 以上の研究実績をまとめて成果報告書として刊行し、関係諸機関等へ配布するとともに、研究機関HPで公開し、オープンアクセスとした。 発掘調査における地層の観察・記載をもとに、これを繋げて過去の景観を広域で復元するという本研究の実践は、発掘調査精度の向上喚起や新たな研究視座を提示した点で学術的意義があり、また既存の調査成果の総合化は「文化財の活用」という社会的要請への一つの回答として社会的にも意義があると考える。
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