本研究の目的は、インドネシア・南スマトラのパセマ高原に分布する装飾古墳をデジタル・アーカイブすることで描写規則や画題、埋葬施設との関連を闡明にし、その系譜関係をインドネシア考古学研究センター(ARKENAS)と共同して解明することである。当地の装飾古墳は、赤・白・黒などの鉱物性顔料を使用して埋葬施設内に文様を描いたもので、インドネシアで装飾古墳があるのはこのパセマ高原だけである。しかし、インドネシア国内を除くと日本はおろか世界的にもこの装飾古墳の存在や内容の詳細については知られていない。とくにレンバク村に所在する古墳では、ベトナムに起源するドンソン青銅器文化の銅鼓(ヘーガーⅠ式)を背負い、象に跨った人物や多彩な幾何学文が表され、インドネシア外からの影響が指摘されていた。これを解明するために、初年度は基礎的資料の収集とGIS調査、2年度は現地踏査と測量原点の確認、本年度は現地での簡易精度による装飾古墳調査を実施した。実施時期は、乾季の直射日光が差し込む環境下で、写真測量の精度のブレに留意しつつ簡易座標を現地に設営して計測を遂行した。また、ARKENAS職員と密接に協議しつつ、インドネシア考古学における画題の解釈や日本との比較を現場で行うことができ、国際会議で報告するためのデータ取得、予備的研究を推進することができた。他のパセマ高原に展開する装飾古墳についても現地踏査や情報収集を進め、彩色壁画以外の装飾古墳の広がりについても確認できた。以上の研究を通じて、インドネシア巨石文化における装飾古墳の位置付けを、東南アジア先史時代の人の移動の中に正しく位置付け、多様な文化が複合するインドネシア古代史の再構築をインドネシア考古学研究センターと共にはかることができた。
|