本研究課題は,市街地化した地域を流れる農業用水を対象に,農業利水者の利益を守りつつ,非農家も含めたさまざまな主体がその多面的機能を十分に享受しながら,地域資源として持続的に利用・維持管理していくための適正なガバナンスのあり方を提示することを目的とした。その際,ローカルスケールと流域スケールという異なる2つの空間スケールで,それぞれ異なる着眼点から市街地内を流れる農業用水の価値を評価しようとした。 流域スケールとしては,日本全国の一級水系109流域を対象に,人口,土地利用,降水量,地形等のデータを流域ごとに集計した「流域環境データベース」を構築し,それに基づいて,各流域の水需給バランスにみられる特性を相対的に比較分析することで,流域内における農業用水の水資源・水環境としての利用や維持管理の価値を相対評価する指標を提示した。その研究成果は,2編の学術論文としてすでに公表している。最終年度には,その流域環境データベースの各項目を地図化した「流域環境データマップ」を作成し,ホームページ上で広く公開した。 ローカルスケールとしては,市街地内を多くの農業用水路が流れ,環境用水としても長く市民に親しまれている石川県金沢市を対象に,各農業用水路の水源河川や水利権の種別,土地改良区の受益面積や組合員数の推移について把握した。その上で,最終年度には,市街地化が進み受益面積や組合員数が減少しているいくつかの用水路を対象に,現地調査によってそれらの維持管理や,環境用水としての非灌漑期にあたる冬季の通水状況などについて把握した。今後はそれらの調査結果を,学会で発表し論文として公表するとともに,英文書籍としてまとめ,日本の事例を広く海外に発信する予定である。
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