本研究は日本統治下の朝鮮・満州を対象として、民間で作成された都市や観光地、広域空間の平面図、鳥瞰図、絵葉書などに関する情報を収集し、データベースを作成した上で、それらの資料を読み解き、商工業の実態やツーリズムのあり方、表現された地域イメージを明らかにすることを目的としている。本年度は最終年度であり、昨年度までに作成した朝鮮半島と満州の市街地図データベースの補足を行うとともに、ハルビンに焦点を当てて、市街地図に加えて案内書の収集とデータベース化を行った。ハルビンの案内書と市街地図を集成した研究は学内雑誌に公表した。そこでは、ハルビンの案内書と市街地図ともに1910年代に先行して少数のものが発行され、1920年代には継続的に発行されるようになるが、内容的には商工案内を主としたものであること、1932年の満州国成立以降は、ともに数多くのものが発行されるようになり、内容は満州観光の活発化によって、観光案内を主としたものが増えていくことなどを明らかにした。次いで、案内書と市街地を活用して1910年代のハルビンの日本人商工業者の特性を検討した研究を行い、学会で研究報告を行った。そこでは、1910年代のハルビンの日本人居住者の職業は、官吏や貿易商、雑貨商、酌婦などが多いが、その他には薬種商・売薬商が比較的多いこと、薬種商・売薬商は中国人街(傅家甸)に居住する者が多く、中国人を顧客として、薬のほかにアヘンも販売していたと考えられることなどを指摘した。
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