研究課題/領域番号 |
17K03247
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
石崎 研二 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (10281239)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 都市システム / 複雑ネットワーク / 数理計画法 |
研究実績の概要 |
今年度は都市の地理的分布を考慮したモデル構築のために、従来の複雑ネットワーク・モデルに関する知見を整理し、地理学的視点に基づいたネットワーク成長モデルの定式化とアルゴリズムの開発を試みた。複雑ネットワーク研究は物理学や数学などの自然科学分野での研究蓄積が盛んであるが、文献資料に基づき、これらの分野で開発されたモデルを検証したところ、現実の都市システム分析に適用するには、地理学における経験的な研究成果をふまえてモデルを改良する必要性があることを確認した。具体的には、近接性のみならずノードの規模を考慮した空間的相互作用効果や空間的拡散研究における伝達効果などである。これらをふまえてモデルの改良の可能性について検討し、改良モデルの定式化を試みた。さらに、モデルを実行するためのコンピュータおよびソフトウェアを購入し、仮想的なデータセットに対してモデルを実験的に適用した。移動距離の制約、都市規模による確率設定、バリア効果などの制約条件と、移動コスト最小化、総流動量最小化などの評価基準を変えながら数値実験を繰り返した結果、制約条件と評価基準の組み合わせによって、多様なネットワーク特性を有した都市システムが生成されることがわかった。具体的には、従来から知られているChristaller型およびPred型と呼ばれる階層構造を有した都市システム以外に、スモールワールド性やスケールフリー性に特化したネットワーク構造を有する都市システムである。これらの多様な都市システムの構造は、あくまで仮想的なデータとモデルに基づく実験結果の産物ではあるが、現実の多様な都市システムを理解するための一助となることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
複雑ネットワークに関する研究は膨大な数があり、また当該研究に取り組んでいる学問分野も多彩である。それらの文献を網羅的に渉猟するのは極めて困難であり、今年度は文献資料の収集に時間を要したため、研究成果を十分に咀嚼する時間があまりとれなかった。したがって、構築したモデルも簡易的なものに過ぎず、さらなる改良を施す必要がある。また、数値実験を実行する際は、既存のソフトウェアのみを利用したため、扱えるデータ量や条件の数に限りがあった。モデルの精緻化と現実的なデータに適用可能なアルゴリズムの開発が不十分であったことが、上記の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き先行研究を精読し、モデルの精緻化に努める。とりわけノードの規模の違いを考慮したモデルの構築と大量データに適用可能なアルゴリズムの開発に着手し、数値実験をあらためて実行する必要がある。その結果をふまえて、既存の都市システム研究で用いられた複数のデータセットを準備し、企業活動の空間的配置や都市間の連結関係などのパラメータを設定したモデルの適用を試みる。数値実験と現実データへのモデルの適用によって、複雑ネットワークの視点をふまえた都市システム分析の可能性が検証可能と思われる。今後は、予定通り企業間取引データを取得し、多様なモデルに基づくネットワーク構築と、現実の都市システム構造との比較検討をする予定である。
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