本研究では当初,労働力状態に着目して日本の居住地域構造を解明することと非労働力人口の増減の要因を解明することを目的としたが,過疎地域で人口の自然減少が拡大するなか,田園回帰など地方移住に対する社会の関心が高まったことを受け,過疎地域での人口動態に関する研究も合わせて進めることとした。 本研究ではこれまで,以下の成果を得た。まず,市町村別の労働力状態について,指標別・男女別の地図化を通して,都市部-農村部,都心-郊外などの地域差を示し,その背景に都市的性格の強弱やジェンダー規範,職業構成の差などがあることを指摘した(『和歌山大学教育学部紀要』70)。また,高齢化に伴う労働力人口の減少の地域差を検証し,注目を集める人口の田園回帰に何を期待するかを整理した(『地理』63(6))。さらに,田園回帰との関連から,人口変化の空間的プロセスや地域人口の将来推計に関する論考を執筆した(『田園回帰がひらく新しい都市農村関係』)。 以上の成果を踏まえ,本年度は以下の研究を進めた。まず,地方都市の郊外住宅地である和歌山県岩出市の労働力状態を分析し,労働力の高齢化と女性化の進展や,大都市圏郊外と同様の出産・子育て期にある女性の働きにくさを明らかにした(『和歌山大学教育学部紀要』72)。次いで,過疎化の進展した和歌山県古座川町の人口の減少過程を分析し,高度経済成長期の人口流出,近年も継続する進学や就職に伴う人口流出,人口の自然減少の継続などを明らかにし,今後は移住者の獲得が課題であることを示した(『Kii-Plusジャーナル』2,印刷中)。また,2021年の人口地理学の研究動向を整理し,コロナ禍や自然災害と人口分布・移動との関係,大都市圏での居住分化,地方移住,子育て層や高齢者の支援,健康の地理学などでの研究の進展を示し,多様な観点からの研究の必要性を主張した(『人文地理』74(3),掲載予定)。
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