研究課題/領域番号 |
17K03251
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研究機関 | 群馬県立女子大学 |
研究代表者 |
関村 オリエ 群馬県立女子大学, 文学部, 准教授 (70572478)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ジェンダー / 郊外 / 住民 / 人文地理学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会的・文化的な性別役割分業といったジェンダーの視点から、高度経済成長期に誕生した計画空間である郊外空間の変容と、そこに展開される住民の生活実践を明らかにすることである。人口の少子高齢化や自治体財政の緊縮化などで過渡期にある大都市の郊外空間においては、「男性=勤め/女性=家事」といった近代核家族の概念に下支えされた性別役割分業が終焉を迎えつつある。本研究では、こうした郊外空間の変容の過程を、これまで「郊外の住人」とされてきた女性(母親)ではなく、男性(父親)たちに注目し、彼らよる地域実践の分析やその検討から明らかにするものである。こうした分析を通じて、本研究では、男性/女性に生じているジェンダー課題をはじめ、郊外空間の構築主体としての男性や、そこに生じる新たな「男性性」の議論についても考察したいと考えている。 2017年度は、近畿圏において大規模ベッドタウン、ニュータウンを有する大阪府豊中市を対象として、父親たちによる地域の子育て支援活動への参加と、そこに生じる新たな活動実践をジェンダーの視点から分析・検討した。協力者はいずれも働き盛りの男性であり、学校問題や子育てを基盤として取り組まれている活動に参加する父親たちであった。実際に、彼らの行う活動は、教育問題から祭りまで幅広く地域を支えるものであり、彼らは当該活動の中心的担い手として期待される存在となっていた。だが、彼らは職場と同様に地域・家庭への参入を果たす一方で、再生産労働(特に家事労働)に関してはあまり積極的な関与を果たしておらず、このことは申請者がこれまで取り組んできた母親たちの事例研究と比較すると大きく異なった。今後は、さらに男性たちの地域活動と再生産労働との関係性を、「男性性」を手がかりとしたジェンダーの視点から検討したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地区の再開発により、多様な世帯の転入と階層化が進む豊中市を事例地域として選定し、申請者が研究とラポールを構築してきた当該地域の子育てネットワークを活用した。先に示したように、具体的には、地域の子育て支援に取り組むNPO、任意団体の他、教育支援組織に参加する男性たちに聞き取り調査を実施して得られたデータを整理し、そこから彼らが周辺課題の解決に対してどのように問題意識を持つに至ったのか、また、自らのジェンダーを改変させながら、他人々との関係の中でいかに対応しているのかを検討した。 子育てに関連した団体の活動に参加する男性たちについて、地域問題への関心が高いため、聞き取り調査により収集されるデータには、若干のバイアスがかかった可能性がある。だが、この研究において中心的なテーマとなるジェンダー観、つまり「彼らが既存のジェンダー役割に自覚的か」、「固定的なジェンダー役割分業や男性役割についての改変に意欲的か」ということについては、非常に重要なデータを得られたと考えている。それは、今回の調査により再生産領域(地域・家庭)への関与を志向する男性住民たちの中心的動機に迫ることができ、彼らの「男性性」が、男性個人のみならず、職場や家庭など個人を取り巻く環境によってもいかに創出されるのかという点が浮き彫りになったためである。なお、「男性性」というテーマについては、当該年度は、セクシャルマイノリティを招いた講演会や、グローバル化と労働観の変化を考えるためのエクスカーションにも参加することができ、空間や場所を通じて構築される「男性性」について、地理学の立場から探究することができた意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
申請者はこれまでの研究の中で、都市郊外空間における住民たちの活動実践が、職住分離構造の空間の秩序となってきたジェンダー役割分業の仕組みと規範を乗り越える可能性を持つものであることを明らかにしてきた。だが一方で、ジェンダー秩序の再編を求める住民たちの実践が、既存の家族内役割を前提とした二重負担を伴いながら達成されていることや、それら実践主体の多くが女性たちに限定にされていることも明らかとなり、男性たちの再生産領域における「不在」や、再生産労働に対する男性(社会)の「変わらなさ」が深刻な問題として浮かび上がった。 郊外空間における変容過程において、女性たちが実践によりジェンダー秩序を改変し乗り越えようとしてきた一方で、そのような男性たちの姿がなかなか描かれて来なかったのは、男性のジェンダー化された位置性に対する当事者たちの自覚の欠如(多賀2011)があると考えている。本研究では、住民の活動実践の持続可能性とその課題を適切に解明するため、「男性性」という切り口から議論を行い、男性住民のジェンダー改変や再構築過程を明らかにする。そのため、引き続き大阪・豊中における父親たちの地域・家庭への参入に関する質的な調査、再生産領域の中での新たな「男性性」の分析・検討を行いたいと考えている。 また、グローバル化により非正規雇用や周縁的なサービス労働への需要が増大し、公的な住宅供給の再編の中で、これまで排除されてきた異なる国籍や、階級に属する主体が暮らし、地域参入する機会も増えている。本研究では、今後、ジェンダーの分析軸に階層・階級、エスニシティなどの変数を加えながら、郊外空間における新たな変化を、多様な住民たちの実践と「男性性」という観点からも考えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に向けては、海外で開催予定のジェンダーと空間に関する勉強会に参加する予定で、そのための参加料の支払い(4月)のために支出分(現地通貨の日本円換算)を確保していた。結局、勉強会主催側の定員都合により参加することが叶わなくなってしまったが、こうした予定があり、次年度使用額が生じた。使用計画としては、次年度の必要物品の購入等にあてたい考えている。
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