2010 年代において、欧米の進化経済地理学では、「レジリエンス」をめぐる活発な議論が展開されている。「レジリエンス」とは、自己組織性をもった生態系の安定性の議論をベースとして、グローバルな経済環境の変化に伴って生じる不確実性に直面をせざるを得ない状況の中で地域が衝撃から回復し立ち直る過程であるとされる。この「レジリエンス」を分析するためには、分析手法の精緻化が喫緊の課題となっている。本研究では、第1に、方法論的枠組構築のために、進化経済地理学の理論的成果とその課題を明らかにする。また、第2に、国内外の企業城下町におけるフィールドワークによって、産業地域のレジリエンスに関わる技術的・関係的要因を分析する。 令和4年度は、これまでの理論研究およびフィールド調査による事例研究の結果を取りまとめて、論文を執筆した。 理論研究では、進化経済地理学およびそれにおけるレジリエンス研究の動向について検討した。進化経済地理学は、産業集積に関する従来の議論に疑問を投げかけ再考に導いた。これまで、「地域特化の経済」は「都市化の経済」と対比されてきたが、この両者に関する議論に、進化経済地理学の重要概念である「関連多様性」は、新たな論点を提示している。近年では、レジリエンスに関する議論が蓄積され、単にショックからの回復という短期的変動に留まる概念にせず長期的な地域の成長経路と結びつける見方への拡張も進んでいると論じた。 事例研究では、米国のピッツバーグの動向を取り上げた。鉄鋼都市として知られてきたピッツバーグは、市内にある2つの有力大学を巧みに利用しながら、産業構造を転換させてきた。この都市における1980年代の鉄鋼不況と、2000年代後半の世界金融危機に着目したところ、産業構造転換やイノベーション創出の取り組みが、ショックに対するレジリエンスとして機能していたことを示した。
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